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ジェルム〜宝石の島〜 第9話『霧の女神』

 テッド達は街で防寒具を買い、イヴェールの街を出た。ジェミニロードは東側。モンスターを倒しながら進んでいくと、やがて小さな祠のような物が見えてきた。近付くと、扉にはシスターの持っていた十字架と同じ柄のレリーフがある。ここがジェミニロードで間違いなさそうだ。
 扉を開くと、下へ続く階段が見えた。今まで通ってきた洞窟と違い、厳かな装飾が随所に散りばめられており、まさに荘厳な造りだった。階段を下まで降りきると、左側、正面、右側と、扉が三つ目の前に現れた。

「しらみ潰しに探してみるか?」
「まあ、それしかないでしょーねー」
「戦う準備はできていますよ」

 三人は頷くと、まず右側の扉を開いた。すると今度も、左側、正面、右側に扉がある。来た扉も含めると、今度は四つだ。

「迷路みたいねー」
「迷路……ちょっと待ってください」

 ヴィオラが言うと、ザンは懐からカラフルなガラス玉を取り出した。来たルートにこれを置いておけば、帰りに迷うことはないだろう。行き止まりに当たったら、これを回収していけば同じ道を通ることはない、と。なるほど、と二人は思った。
 ザンのやり方通りに進んでいくと、やがて扉が背後一つだけの部屋に出た。奥には滝と、その前に宝箱のような物がある。あそこにきっと十字架があるに違いない。テッドが一歩踏み出した瞬間だった。

「ーーワタサナイーー」

 急に悪寒がした。霧のような何かが身体の間を通り抜けて行くと、背後に何かを感じた。それは突然、ザンに襲い掛かる。咄嗟に剣を抜いて受け止める。流石はザンだった。そして霧のような物はテッド達の前で、ローブを纏った女性へと姿を変える。それは、あのステンドグラスの女神そっくりだった。

「どうやら、十字架を守っているようですね」

 確かにそう見える。しかし、こちらとしても"それ"を手に入れないといけない理由がある。テッドとヴィオラも武器を手にした。

「悪いけど、行くぜ!」

 テッドが斬りかかると、女神はふわりと姿を消し、テッドの背後に回った。勢い余ったテッドは壁に叩きつけられる。

「ってえ!オレの攻撃は通んねーのか?」

 ヴィオラは考えた。この女神には普通の攻撃は通らない。試しに炎の球をひとつ投げてみると、こちらはヒットした。つまりこの女神には「魔法攻撃しか効かない」ということになる。ザンは流石、暗黒騎士だけあってすぐに理解したようだった。暗黒の力を剣にこめて戦っていた。とはいえ、ザンだけに頼るわけにもいかない。と、ヴィオラは閃いた。

「テッド!剣をこっちにかざしてー!」

 二つの短剣をかざしたテッドに向けて、炎の魔法を放つ。

「うげ!何すんだ!?」
「いいから!もうちょっとガマンしてー!」

 少し経つと、テッドの剣の刃は赤い輝きを放ち始めた。

「刃に炎の魔法を纏わせてみたの。これならいけると思うよー」
「なるほどな!サンキュ、ヴィオラ!」

 テッドと、遅れてヴィオラも戦いに参加する。炎の刃で女神を翻弄するように戦うテッド。魔法で応戦するヴィオラに、暗黒の力で戦うザン。三者三様の戦いにより、女神はやがて霧となり、散った。しばらくの間、武器を構えていたが、それきり女神は姿を現さなくなった。

「倒した……のか?」
「そうみたいねー」

 ヴィオラが答えると、テッドは宝箱のもとへ走った。銀色に輝くそれを開けると、同じく銀色にきらりと輝く、銀色の十字架が入っていた。テッドはそれを手にすると、ヴィオラとザンと共にジェミニロードを出た。双子島が真の姿を見せるのは、もうすぐだ。

 イヴェールの街へ戻ると、既に日が沈んでいた。シスターの事も考慮し、はやる気持ちを抑え、教会へは明日向かうことにした。イヴェールの宿屋はログハウス調で、テッドは同じくログハウスである実家を思い出した。
 翌日、朝食を済ませると、三人は教会へ向かった。扉を開くと、昨日と同じようにシスターがこちらへやってきた。

「銀色の十字架って、これだよな?」

 シスターは少し驚いた様子だった。本当に手に入れてくるとは思っていなかったのかもしれない。事実、テッド一人なら不可能であっただろう。テッドから十字架を手渡されたシスターは、祭壇の前に移動した。そして目を閉じる。

「……」

 何かを呟いていたが、テッドには何を言っているのか、それが何なのかはよくわからなかった。ヴィオラの呪文とも似ているように思えたが、それとも違うようだった。

「双子島よ、今こそ、真の姿をーー」

 シスターがそう言うと、地鳴りのような揺れが起こった。五分ほどだろうか。小さな揺れが収まると、シスターはこちらへやってきた。

「外へ行ってみてください。きっと、あなた方の目指す場所が見える事でしょう」

 テッド達は早速外へ向かおうとしたが、何かを思い出したかのようにシスターが呼び止める。

「この前は、十字架が揃っても真の姿を現さないかもと言いましたが、あれはあなた方を試した嘘。どうか、お許しを……」
「構わないさ。オレ達は目の前にある、今やれることをやるしかねーから」

 そうして自分の名前を告げると、テッド達は改めて教会を後にした。
 シスターは振り返り、ステンドグラスの女神を眺めた。それには顔は描かれていなかったが、シスターには彼女が笑っているように見えた。

「ありがとう。テッドさん……」

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