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ジェルム〜宝石の島〜 第18話『手がかり』

 やがて見えてきたオトヌの城は、ジェルムの城とは全く違う姿をしていた。入り口に兵士が立ってはいるものの、特に確認などもなく自由に人が往来している。そして何より、ジェルム城よりも年季が感じられた。"古城"という言葉がピッタリだった。

 城の中に入ると、赤いカーペットが敷かれているのはジェルム城と同じだったが、左右に武器屋や薬屋、食材屋などが立ち並ぶ、所謂商店街といった感じだった。
 四人がまず向かったのは酒場。時刻は十八時。きっと混み合っているに違いない。四人の予想通り、酒場は人で溢れかえっていた。ウェイターに空きがないと言われたが、目的は人探しであり、ディーンの写真を見せると、三日程前にここに来たと言われた。
 久しぶりの手がかりだった。その後も聞き込みを行うと、あの席にいた、何時頃だった、宿屋で見た等、数えきれない程の情報が得られた。そして、女王に謁見していたとも。初めてジェルムに行った時以来得る事の出来なかった情報を一日で、しかも短時間で得る事ができ、リリアンは思わず泣きそうになった。

「おっと、泣くのはディーンさんに会ってからにしようぜ」

 テッドが肩を叩いた。まずは女王に謁見する事を次の目標にし、今日はもう宿屋で休む事にした。道中もしかしたらすれ違っているかも……と、リリアンはソワソワして落ち着かなかったが、焦っても仕方がないと言い聞かせ、眠りについた。
 翌日。食事を済ませると、女王の間の前へやって来た。さすがにこの部屋の扉は閉ざされていたが、兵士はとてもフランクで、目的を伝えると疑う事もなく、あっさりと扉を開いてくれた。その奥では女王と思しき人物が玉座に座っていたが、驚いたのはその若さだった。リリアンと同じくらいか、少し歳上ーー二十歳前後ーーに見えたからだ。

「ようこそ、旅の者達。もっと近くへ」

 そう言われ御前まで行くと、女王の美しさに目を奪われた。若いだけではなく、美しい。とても美しかった。テッドにおいては完全に固まっていたので、背中を少しつねっておいた。

「女王様。この男を知りませんか?」

 リリアンが写真を見せると、三日前に会いに来たと言った。やはり、この島にいると思って良さそうだ。しかし女王は首を傾げた。

「古の塔へ行きたいと言うので目的を聞いたのだが、教えてくれなくてな。なんとなく、嫌な予感がするのじゃ……」

 古の塔。この城に入る前に見た、向こう側の島にあるあの高い塔の事だろうか。しかし、何のためにそこへ向かったのだろうか。もしザンと会ってしまったら……リリアンは、体が震えた。

「大丈夫か?」

 テッドに支えられて、何とか姿勢を保つ。

「古の塔へ急がなくちゃ……兄さんが、兄さんが危ない!」

 女王に一礼して、その場を立ち去ろうとするリリアンに、女王は声をかけた。古の塔にはトパーズという石があり、それに触れては決してならないと。疑念が確信に変わった。尚の事、急がなくてはならない。四人は準備をして、オトヌの城を後にした。


 オトヌの城がある島と古の塔がある島を繋ぐのは、ひとつの大きな橋である。吊り橋ではなく、石が積み上げられた、とても大きくしっかりした造りの物だ。とはいえ、端に寄ると意外に高く、そして急な運河が流れているため、なかなかに怖いものがあった。

「結構高さがあるのねー」
「だな」
「泳いでなんか渡れないねー」
「み、みんな!危ないからさ!もうちょっと内側……あ、歩こうよ!」

 意外にもアスカは高所恐怖症だった。三人が橋の端からの景色を楽しむ中、アスカだけは内側から決して動こうとしなかった。モンスターとの戦闘になっても、内側から動かずに戦っており、その器用さに思わず三人は笑った。
 橋の上のモンスターは数こそ少ないものの、一体一体がとても強かった。そして大きい。横をすり抜けて先へ進む……なんて事はできなかった。マジカルテントを使う事もさすがに危険だったので、このまま進み続けるか、一旦戻るかの二択しかなかった。もちろん、四人に戻るという考えは毛頭ないわけだが。
 リリアンとテッドは自分の目的ーーディーンの捜索ーーのため、ヴィオラとアスカは仲間のために、そしてザンの目的を果たさせないために。それぞれが自分の目的のために戦っていた。特にアスカは、もう一度ザンと会ってみたいという気持ちがあった。何故瞳の色が変わるのか、自分には無くて、自分と同じ物を持っている彼にとても興味があった。

 橋を渡り切る前に、四人の前に立ち塞がったのはオーガだった。リリアンが初めて戦ったオーガよりも何倍も大きく、筋骨隆々ときている。一瞬ではあるが、リリアンはあの日を回想した。一体いつから、どこで歯車が狂ってしまったのだろうか。そう思いながら、矢を一本、また一本と射っていく。きっとまた会える、そう信じて。
 テッドの一撃で、オーガは倒れた。橋を渡り切った四人は、眠るようにマジカルテントで休むのだった。

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