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ジェルム〜宝石の島〜 第11話『赤い瞳』

 扉を開くと、パイプオルガンの音が耳に入った。耳をつんざくような音量だった。ジュリアンが会場の奥にあるパイプオルガンで結婚式の定番曲を弾いているのだ。その手前には、ウエディングドレスのような、白いドレスを着せられたリリアンが倒れている。

「なぁーんだ。もーちょい時間がかかると思ったんだけどなー」

 パイプオルガンの音が止むと、ジュリアンは立ち上がって振り返る。彼もまた、白いタキシード姿であった。ブチ切れそうなテッドを静止するかのように、ヴィオラが前に出る。

「なんだよ、ドベのお前がオレとやるってかー?」
「やってみないとわからないわ!」
「いい度胸じゃん、かかってこいよー!」

 そう言うと、ジュリアンは消えた。探す間もなく、ヴィオラの真横に現れ、彼女に雷の球を喰らわせた。テッドにもそれを放ったが、彼は持ち前の素早さでなんとか回避できた。その間に、ザンが黒い球を放ちジュリアンに一撃を与える。

「ってえ!なんだテメ……」

 ジュリアンが顔を上げると、彼は動かなくなった。動けなくなった、が正しいのかもしれない。必死の思いで雷の球を放つと、彼の仮面が吹っ飛んだ。血のような赤い瞳が、ジュリアンを見下ろしていた。

「……許さん……」
「おま……魔……!?」

 ジュリアンが答えるより先に、ジュリアンの体はバラバラに引き裂かれた。ヴィオラもテッドも、思わず息を飲んだ。今までのザンとは違う、別人がそこにいるようだった。暗黒の剣を振り下ろすと、ヴィオラに手を差し伸べる。ヴィオラが思わず瞬きをすると、そこにいたのはエメラルドグリーンの瞳のザンだった。

「すみません。怒ると別人になってしまうようで……」

 そんな一言で片付けて良いレベルではないのだが、今はそれを問い詰めるより先にやるべきことがある。リリアンに駆け寄る。魔法が解けて、いつもの服装に戻っているリリアンを抱きしめる。名前を呼ぶと、彼女は目を開けた。

「よかった……無事で……」
「ちょ、ちょっとテッド!恥ずかしいよ!」

 ぎゅっと強く抱きしめるテッドに、最初こそバタバタと暴れたものの、助けに来てくれた嬉しさと、独りの怖さ等を思い出し、テッドの体に手を添えた。ヴィオラが熱いわねーと言うと、二人は急に恥ずかしくなり、ぱっと離れた。そんなリリアンの手には、青い石が握りしめられていた。

「この石は?」

 ジュリアンがこれで結婚指輪を作ろうとしていたらしい、とリリアンが言うと、突然二人の前に刃が突きつけられた。暗黒の刃、ザンだった。

「それを渡してください」
「ザン、さん……?」

 リリアンにとっては何故彼がここにいるのかはわからなかったが、以前会った時とはまるで別人に見えた。優しそうな声の奥に、怖さすら覚える。この石が何かはわからなかったが、リリアンにとって必要な物ではなかったため、ザンに手渡した。それが正しかったのかは、この時はまだわからなかった。

「ありがとう、リリアンさん」

 そう言うと、三人は次々と意識を失った。一瞬、血のような赤い瞳が光ったのを、リリアンは薄らと覚えていた。

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