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ジェルム〜宝石の島〜 第20話『黒の正体』

「私だって足手まといになるかもしれない。でも……」
「ーー見せたくなかった」

 その懐かしい声に、リリアンとテッドは顔を上げた。そこにいたのは、ディーンだった。リリアンは口を両手で覆い、テッドの身体は震えていた。やっと会えた。やっと。しかしディーンは彼らが近寄ると、一歩後ろへ下がった。

「本当は、見せるつもりはなかった」

 あのジュリアンというエルフ族の少年さえいなければ、そうディーンは続けた。思わずヴィオラは口を開くが、言葉を飲み込んだ。ディーンは続けて、自分の懐からひとつの石を取り出した。黒く、しかし光の加減で様々な色を見せるその石は、神々しくも、禍々しくも見えた。

「これは……ブラックオニキス」
「ブラックオニキスだって……!?」

 驚いたのはアスカだった。この世界の島には、それぞれの島を守る守護石が存在している。プランタンはエメラルド、エテはルビーといった具合に。そしてディーンが手にしているブラックオニキスは、滅びたはずの魔族の島の石だった。

「何故君がそれを……!その石は……!」
「そう、魔族(キミ)の石さ」

 そう言うと、眼鏡が落ち、黒い光がディーンを包む。震えて動けなくなっているリリアンを、テッドが支える。黒い光が消えた時、目の前に現れたのは……ザンだった。

「これが今の俺の姿さ」

 震える両手で、口を覆い隠す事しかできなかった。兄はずっと近くにいたのだ。その度に攻撃され。倒され。何が何だか、わからない。リリアンは混乱して、会話に全くついて行けなかった。ただ、テッドに支えられて立っているのがやっとだった。
 石を集めてどうするつもりだというアスカの問いに、ディーン……ザンは懐からトパーズを取り出した。黄の竜は、既に倒されてしまった後だった。

「何をしたいのか……これから見せてあげるよ。ジェルムで、待っているから。でも……」

 ザンは暗黒の剣を抜き、その鋒をアスカへ向けた。

「魔族は殺す。例えハーフでもね」

 殺す。そんな台詞が兄の口から出るなんて、考えもしなかった。

「……違う」

 リリアンは言った。自らを支えていくれているテッドの手から離れ、ディーンの眼鏡を拾う。ヒビが入ったアンダーリムの眼鏡をかけたリリアンの眼差しは、とても強い意志が表れていた。

「あなたは兄なんかじゃない。兄は……あなたに殺されたのよ」
「まあ、そう解釈してもらっても構わないさ」

 だからアスカは、私達が守る。そう言うと、リリアンに続きテッドも、ヴィオラも、武器を構えた。アスカも、少し遅れて刀を抜く。次の瞬間、全員が散った。
 アスカとザンの刃がぶつかり合うと、すかさず放たれるヴィオラの魔法。避けたザンをテッドが追い詰め、リリアンは薬を調合してアスカを強化する。全員の連携は、これまで見た事のない程に素晴らしいものだった。隙の全くない、攻撃の嵐。ザンが攻撃しようとすると、今度はガッチリとガードに回った。流石のザンも、焦りを見せ始めた。

「チッ」

 間合いを取ると、ザンは剣を納める。

「わかったよ。キミもジェルムへ来ると良いさ。みんなで、ショータイムを楽しもうか!」

 そう言うと、笑いながらマントを翻し、姿を消した。それと同時に、リリアンはその場に倒れ込んだ。自分の名を呼ぶテッドの声だけが、耳に残っていた。
 ショータイムとは、一体何のことだろうか。何かはじまるというのだろうか。

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