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ジェルム〜宝石の島〜 第15話『火山の中で』

 リリアン達は、エテの長老の孫娘であるアンリを連れて、大火山の入り口へ辿り着いた。アンリの双子の弟であるライトを探す事。最大の警戒点は、ザンが現れる事だった。何としてもアンリとライトだけは守らなくてはならない。ライトがルビーを手にしてしまわないように。それだけを祈って。

「中は思った程暑くねーんだな」

 テッドの言う通りだった。ジェルムとエテを繋ぐ洞窟の方が、余程暑かった。マグマはあちこちに散見されるが、滝や池がないからかもしれない。
 モンスターは少々手応えのあるものが多かったが、アンリの回復魔法がとても頼もしかった。リリアンの薬でも十分ではあったが、調合と詠唱では、その速さに結構な違いがあった。
 道なりに進んでいくと、やがて火山の中とは思えない、赤い花が一面に咲き誇る部屋へ出た。これこそ、ライトが目指していた花だと、アンリが言う。しかし、この部屋にライトの姿はなかった。

「アンリちゃん。ライト君は、好奇心旺盛だったりする?」

 リリアンの問いに、アンリは頷いた。

「イヤな予感、的中かもねーー」

 ヴィオラの指差す先には、また道が進んでいた。恐らく、ここを進んでいけば、ルビーのある部屋に辿り着くだろう。イヴェールと同じであれば、ここにもきっとドラゴンがいるだろう。そして、ザンも。これらは全て「まだルビーがザンの手中にない」という事が前提だが、考えられる可能性は全て頭の中に入れておかないとならない。だが、決して焦ってはいけないと、アスカがみんなを諭した。

「急いては事を仕損ずる、ってね」
「なんだそりゃ」

 どうやら、アスカ以外はその意味がわからなかったらしい。ただ、ほんわかとしたアスカの笑顔が、なんとなく全員を落ち着かせた。
 赤い花の間を後にして、更に奥に進み始める。モンスターがどんどん強力になっていくが、ライトは本当に大丈夫なのだろうかと聞くと、彼の魔力は自分よりも強大であるだろうと、答えたのはエルフ族のヴィオラだった。

「ハーフエルフって、凄いのよー」

 ハーフエルフは寿命こそ人間と同じく九十歳前後であるが、その魔力はエルフの二倍とも三倍とも言われている。エルフと人間が恋に落ちる事自体が少ないので、数としてはほんの一握りであるが、ヴィオラの故郷である「エルフの里」にもいることはいる、そう教えてくれた。

「エルフの里ってどこにあるんだ?」

 ここでテッドが疑問を投げかけたが、ヴィオラは人差し指を立てて「ナイショ」のポーズを取った。その場所を明かすと、物言わぬ木となってしまうらしい。ヴィオラの言う事が本気か冗談であるかは、一緒に過ごす間になんとなくわかるようになっていたため、テッドはそれ以上は聞かなかった。
 上り階段のある部屋へ出た。ここから頂上へ行けるのだろう。ここまで、ライトの姿は全く見なかった。となると、一本道だったこれまでの道を振り返れば、既に頂上へ辿り着いてしまっていると考えた方が自然だろう。リリアン達はやや急ぎ足で、階段を上って行った。
 長く続く螺旋階段を上って行くと、やがて違う空気ーー少し暑いーーになっていった。頂上が近くなると共に、男の子の声が聞こえた。間違いない、ライトだ。アンリがリリアン達を置いて走り始める。リリアン達も慌てて後を追いかけた。

「ばかライト!こんなとこで何やってんの!?」
「え!?アンリ?」

 アンリがライトに抱きつく。ライトの手には、赤い花が握られていた。ライトは、頂上に佇む赤い竜に、何をしているのか聞いていたと言う。赤い竜がいるということは、ルビーはまだここにあるという事になる。アンリはライトを連れて、物陰に隠れた。時折、説教をしているかのような声が聞こえる。

「ドラゴンさん。あなたに、危険が訪れています」

 リリアンが声をかけても、赤い竜はピクリとも動かない。眠っているのだろうか。

「あなたの"ルビー"を狙う者がいるんです」

 アスカがルビーという単語を出すと、赤い竜はゆっくりとその瞳を開いた。やはり何かがあるに違いない。
 竜が口を開くより早く、不気味な風が吹いた。

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