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ジェルム〜宝石の島〜 第16話『赤い瞳、ふたたび』

「……そうですね。そのルビー、いただきましょうか」

 声がして振り返ると、ザンがいた。まるでつけられていたかのようだった。今度こそは。リリアン達が武器を構える。

「ほう。私とやる気ですか」
「やれることは何でもやってみるんだよ!」

 その心意気、素晴らしいですねとザン。漆黒の剣を抜いた。同時にリリアン達が散る。正面からアスカが剣で斬りかかったが、ザンはこれを漆黒の剣で受け止めた。だが、彼を見たザンは少し驚いた様子だった。

「貴様……!?いや、気のせいか」

 漆黒の剣とアスカの剣がバチバチと火花を散らす。すかさずテッドが横から一撃を加えると、ザンは吹き飛ばされた。ヴィオラが更に追撃する。今なら倒せるかもしれない。誰もがそう思った。

「ふふ……あなた達、強くなりましたね。面白い……」

 ザンが仮面を取ると、エメラルドグリーンの瞳が、みるみるうちに血のような赤い瞳に変わっていった。たったそれだけなのに、背筋が凍る。「怖い」という気持ちが急に襲ってきた。
 笑い声と共に、ザンが姿を消した。まずヴィオラがやられる。次にテッド、リリアンと、あっという間に倒されていく。間一髪、アスカだけは彼の攻撃を食い止めた。しかし、先刻とは明らかに力が違う。押され気味のアスカだったが、自分だけはやられてはいけないと思った。

「僕は……っ、やられるわけには……いかないんだ……!」

 お互いの力が風を起こす。刹那、アスカの前髪が風に煽られ、左目が露わになった。その瞳はザンと同じく、血のような赤い瞳だった。

「貴様、やはり……!」

 ザンが驚くと、一瞬後ずさる。その隙を見逃さなかったアスカは、彼に一撃を加えた。ザンの頬に一筋の切り傷がつき、血が薄らと流れた。

「面白い……面白いぞ!」

次の瞬間、ザンがアスカに目にも止まらぬ速さで攻撃を加え、アスカは崩れ落ちた。


 リリアン達が目を覚ましたのは、長老の家だった。隣ではヴィオラがまだ眠っている。リビングルームへ行くと、ライトと長老がいた。アンリはアスカの治療にあたっているという。リリアンは、ライトにあの後何が起こったのかを聞いた。
 話によるとらザンはアスカを殺そうとしていたらしい。そうはさせまいと二人がアスカの前に出て行くと、ザンは「運が良かったな」とだけ言って、赤い竜を倒してルビーを持っていったと。そして、常夜の街に朝がやってきたと言うのだ。
 何故アスカだけが……そう思っていると、ヴィオラとテッドも目を覚まし、リビングルームへやってきた。テッドの話によると、アスカは一命を取り留め、今はアンリもその横で眠っているとの事だった。
 ライトは続けた。自分達がアスカを守るようにザンの前に立った時、ザンの瞳が赤からエメラルドグリーンに戻った事、自分達には一切危害を加えなかったと。その理由は、誰にもわからなかった。

「彼の次の目的は、トパーズだよ。オトヌに、急がなくちゃ……」

 よろけながら、アスカがリビングルームへやってきた。動いて良いのかと問うテッドに、後は食べれば大丈夫とアスカ。長老はライトを助けてくれた御礼として、ご馳走を用意してくれた。もっとも、その殆どはアスカの胃袋に入ったわけだが。

 その日、長老の引き継ぎの儀式が行われた。先を急いでいたものの、アンリ達に同席して欲しいと頼まれた事もあり、新長老ライトの誕生を見届けた。その席でディーンについて聞き回ってみたが、この島でも手がかりは得られなかった。

 翌日、前長老、新長老ライト、そしてアンリに見送られながら、リリアン達はエテの島を後にした。

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