BLA BLA BLA...
この英語でいうところの「Bla Bla Bla...」は、日本語でいうところの「なんとかかんとか...」である。細かく説明するのが面倒くさいとき、繰り返しになるときなどに、「ね、詳しく言わなくてもわかるでしょ」というニュアンスで使われる。
このことばをみつけたのは、2017年にドイツのミュンスターでおこなわれた彫刻プロジェクトのとある作品を訪問したときだ。
「アートと公共空間の関係を問うこと」をテーマとして10年置きに街ぐるみでおこなわれるこの彫刻プロジェクトでは、10年という時間をかけることでしか作れない作品なんかもあって、そのゆったりと、でも揺るぎないプロジェクトの在り方は、とても素敵だった。
上述のとある作品は、ドイツで盛んなクラインガルテン(日本語訳すると「小さな庭」。街に住みながら、市民庭園の一区画を無期限で借りて、植物を育てたり、小屋を建てたりして、ガーデニングを楽しむことができる制度)を使ったプロジェクトで、2007年から2017年まで、50数人のクラインガルテンの借り主に自分の庭についての日記をつけてもらうというものだ。10年の間に書かれた約30冊の日記が庭園の小屋の中に展示されていて、びっちりと文章が書かれ、家族の写真や何らかの半券や新聞記事が貼られたり、挿し絵が描かれたりした日記もあれば、最初の数ページはしっかり書かれていて、その後はすかすかという日記もあった。
‘Speak to the Earth and It will Tell You’ was a long-term scientific and cultural anthropological study, which the artist initiated for Skulptur Projekte 2007 and carried out in collaboration with Münster’s allotment garden clubs. He contacted over fifty such clubs asking them to keep a nature diary for the next ten years and record botanical and climatic data. In addition, he suggested that they use the diary as a chronicle of local club activities as well as social and political events. The book’s form and weighting of the content were left to the discretion of the individual clubs. Dove trees, which take ten years to blossom, were planted as a visualization of the time span.
The Modern Institute.「Jeremey Deller ”Speak to the Earth and it will tell you” - Skulptur projecte münster」 <https://www.themoderninstitute.com/artists/jeremy-deller/works/speak-to-the-earth-and-it-will-tell-you-skulpture-projekte-mnster-2007-2017/347/>(参照日2020年10月20日)
色とりどりの花が咲く小さな庭にある赤と白の壁と苔の生えた屋根をもつ小屋で、自分の知らない誰かの10年分の日記をパラパラとめくる、というおとぎ話のような状況のなかで、ふと心をとらえたのが、この冒頭のページだった。この日記の持ち主は、しばしば余白が大きかったり、かなり大きく印刷した写真を貼ったりしてはいたけれど、(おそらく)プロジェクトに協力してほしいと言って現れたよくわからない現代アーティストとの約束を律儀に果たした貴重なひとりだったのだと思う。でも、人間、10年もあれば、なんにも書くことのない日だってやってくるし、書くのが心底めんどくさい時だってある。
<何か書かなきゃだけど、書くことなんてなにもない、そもそもなんでおれ/わたしがこれを書かなきゃならない?
ああ、10年だなんて、調子に乗ってなんて約束しちまったんだろうね。でも、書くさ、なんてったって約束しちまったからね、おれ/わたしは義理堅い人間なんだ。
でも、これ以上書くことなんてなくなっちまったし、なんだっていいって言ったのはあの人だ。ほら、これでもなにか書いたってことに間違いはないだろう?>
この「BLA BLA BLA...」からは、そんな彼または彼女のぼやきが聞こえてくる。
どんな参加型アートだって、そんなものだ。3度の飯よりアートが好き、みたいな人でない限り、みんな関わり始めは興奮するし、その瞬間は最先端の素晴らしい試みのような気がするけれど、日常になってくると、無意味なことをしてる気分になることだってあるし、面倒くささのほうが先に立ってしまうことだってある。アーティストや他人の目もなしで、自分だけで長い間その興奮を保ち続けることって結構難しい。
でも、そんな浮き沈みも含めて、人間ってやつはなんとも愛おしいし、予定調和に収まりきらないその人間臭さが、やっぱりアートをおもしろくするものであるとも思う。この「BLA BLA BLA…」と、それを書いたであろう、人が良くて茶目っ気のあるきっとごく普通のドイツ人のおじ/おばさまの想像が、わたしの心をとらえたように。
*Artwork: Jeremy Deller, ”Speak to the Earth and it will tell you”, 2007-2017, Skulptur projecte münster 2017
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