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ソレデハ マコトニ ツマナラナイ

この「ソレデハ マコトニ ツマラナイ」は、「ないた赤おに」という絵本のなかに出てくる手紙の一節だ。

おはなしの主人公は、村の人間たちと仲良くなりたい赤おにと、その友達の青おにである。赤おにが人間たちと仲良くなれるように、悪いおにを演じて手助けした青おには、そのあとの赤おにと人間たちとの仲を慮り、赤おにへの置き手紙を残して、ひとり、旅にでる。

アカオニクン 

ニンゲンタチトハ ドコマデモ ナカヨク マジメニ ツキアッテ タノシク クラシテイッテクダサイ。
ボクハ シバラク キミニハオメニカカリマセン。
コノママ キミト ツキアイヲ ツヅケテイケバ、ニンゲンハ、キミヲ ウタガウコトガナイトモ カギリマセン。
ウスキミワルク オモワナイデモ アリマセン。
ソレデハ マコトニ ツマナラナイ。
ソウ カンガエテ、ボクハコレカラ タビニ デル コトニシマシタ。
ナガイ ナガイ タビニ ナルカモ シレマセン。
ケレドモ、ボクハ イツデモ キミヲ ワスレマスマイ。
ドコカデ マタモ アウヒガ アルカモシレマセン。
サヨウナラ、キミ、カラダヲ ダイジニシテ クダサイ。
ドコマデモ キミノ トモダチ

アオオニ

浜田 廣介 作・いもと ようこ 絵(1988)『ないた赤おに』 白泉社

この、旅に出るにあたって青おにがのこした「ソレデハ マコトニ ツマラナイ」ということばは、途方もなく、やさしい。

青おには、自らがした痛い思いや損、赤おにが感じているであろうすまなさを、持ちつづけたり、持たれつづけたりすることを、ゆるしていない。

そんなことを気にして付き合いを続けていくのは、「ソレデハ マコトニ ツマラナイ」のだ。そして、やり遂げたことが駄目になってしまうのも、やはり、「ソレデハ マコトニ ツマラナイ」のだ。

そんな「ツマラナイ」ことにとらわれて、駄目になってしまうことなく、お互いに、真面目に、楽しく、暮らしていけばいいではないか。それでいいと思うくらいに、青おには、どこまでも、赤おにのともだち、なのだ。

こんな手紙を、わたしもいつか、書きたい。


*Artworks from unknown artist, Phare Ponleu Selpak, 2019

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