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"カノンのへそ"考

最近、TL上で"カノンのへそ"に関する投稿が目立っている。
ある人曰く、「へそを出すそのファッションには合理的な理由が見出せない」
またある人曰く、「(人間的感性を持たない)ウェディングが見繕った服だから仕方ない」
という意見が散見されるものの、未だとしてこれといった総意が存在する訳ではない。
そんな"カノンのへそ"について、思案した事を徒然と書き連ねていこう。

そもそも、"へそ"とは何なのだろう。
生物学上の答えを言うのであれば、それは胎児の頃、 母胎と繋がっていた臍帯の名残である。
母胎の中にいる胎児は酸素や栄養、排泄物などを臍帯(へその緒)を通じて母親とやり取りする事で成長する。が、それはあくまで胎児の時の話であり、ひとたび生まれてきてしまえばそのへその緒は切り取られ、あとには不要なへその跡だけが残る。

ところで、人が臍帯を通じて母親と繋がっていた頃、すなわち胎児という存在は、古くから人間界とは隔たれた異質な存在として人々に捉えられてきた。
羊水の海を泳ぎ、母体の中に潜り込み"物理的に繋がる"機構を持つ胎児は、川を下り、異界を経てはるばる、こちらの世界へと生まれ出てようとする"ケガレなき存在"である。

であるからこそ、出生の際に切り離されたへその緒や胞衣(胎盤)は信仰の対象とされ、その子が大きくなるまで大切に保存される風習が生まれた。
それは新生児の誕生という祝うべき慶事と裏腹に、もう二度と戻れない異界からの分断、即ち"死(ケガレ)"の意識を、母体から絶たれた臍帯と胞衣に感じたからであろう。
あるいは、J.G.フレイザー『金枝篇』で語られる所の"類感呪術"の実例として捉える事もできる。異界より持ち寄った"赤子の分身"として、これらを祀る風習が出来たのかもしれない。

つまり、"へそ"とはヒトが未だヒトでなかった(異界の存在であった)時代の名残、それを遺す最期のスティグマなのである。

翻って、カノンの出している"へそ"にはどういう意味があるのだろうか。

先に触れた通り、へその緒が繋がった胎児は、異界の存在である。
ここにおいて、へその緒は異界を繋ぐ経路(パス)として、へそは異界とこちらの世界を繋ぐ門(ゲート)と解釈する事ができる。

そういえば、カノンのセリフにもこのようなものがあった。

我は門にして無垢なる守護者なり・・・!」

これはカノンが異次元からクリーチャーを召喚する際に発する言葉である。

異界からクリーチャーを喚び出す為には、彼女は異界と現世を繋ぐ"門"でなければならない。
それは、彼女自身が異界の門足る"へそ"を開陳している事の理由になるのではないか。

"無垢"という言葉にも示唆が富む。

ジョン・ロックの唱えた経験主義において、「人間の全ての知識は経験に由来する」とされた。
逆説的に言えば、生まれてすぐの人間、あるいは産まれる前の胎児は、まだ何色にも染まっていない「タブラ・ラーサ(白紙)」の存在であるという。

何者にも染まらないゼロ文明の守護者、つまり"無垢"の守護者である少女・カノンは、ここにおいて、「胎児」のメタファーと捉える事ができる。

偶然だろうか、彼女を庇護するゼニス・ウェディングは、"結婚"を名前の意味に持つ。
当然の事であるが、妊娠・出産の前にあるのは婚姻という結びつきである。

"ゼロ文明"の"守護者"、つまり"無垢さ"を持ち、"異界と繋がる者"という役割を持つが故に、カノンは「胎児のメタファー」と共に"へそ"を出すようになった、そう解釈する事もできるのではないか。

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