【短編小説】「無理しないでね」という言葉の難しさ
「まあ、無理せず」
課長からそう肩を叩かれた。窓の外は真っ暗になってもうしばらく経つ。
とりあえず、ありがとうございます、と返事をしたけど、無理ってなんだよと口内で悪態をついた。
パワハラなんてされたことも無く、評判も良い課長なので、別に心から嫌がっているわけじゃない。課長自身もこの部署に赴任してきたばかりで、たまに自分の方が『先輩』とからかわれるくらいだった。そんなこと知らねえよ、という先方からの連絡にも誠実に返事をしている。すごいと素直に思う。
無理しないって、どこまでなんだろう。
人によってスペックだって違う、だから皆、相手の制御はできない。ここまでしたらこいつは倒れる、それがわからない。
結局自分で自分を操っていくしかない。
理解はしている。
でも、「無理しない」で欲しいなら代わってくれよとも思う。
エクセルを開いている画面に意識を向ける。
PDFにするために、キーボードCtrlとpを押した両手には、いつのまにか思ったよりも伸びた爪が生えていた。
おわり
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