赦し④

突然の余命宣告

 様々なことが上手くいかなくなり数か月が過ぎた頃、突然気が遠のくくらいの痛みに襲われた。出掛けた先だったので救急車を呼んでもらい大きな病院へ搬送された。搬送先では、痛み止めを打ちCTの検査を受けた。容体が落ち着いた頃、医師が難しい顔をしながら『あまり良い状態とはいえないので詳しい検査を改めてさせて欲しい』といった簡単な説明を受けた。後に、再検査をうけ、末期の癌で〝余命約半年〟と宣告された。手術ができない場所に腫瘍があり、すでに全身転移をしており手の施しようがない状態だということだった。

 私は、主治医となる方からその話を聞き不思議と笑いがこみあげ爆笑してしまった。そして、その後、むせび泣くように泣いた。でも、心のどこかでは〝ホッ〟としている自分もいた。何をやってもうまくいかない毎日に草臥れて果てていたからでもあった。これでやっと終わることができると…。もう誰とも何とも闘う必要もないのだと…。心底〝ホッ〟とした。それからは、落ち込むこともなく気持ちを切替え、自身で身体が動かせるまで終活の準備をした。すでにたくさんの人と縁が切れていた状態だったのはある意味よかったのかもしれない。身内にだけは私が亡くなった後のことを頼み、数名の人へ遺言を書いて渡しておいた。まるで、猫が死ぬ前に主人の前から姿を消すようなことを無意識に行っていたように思う。そして、それらが全て終わったと同時に容態が悪化し、私は誰も知らない土地の病院へ入院することとなった。

 入院後間もなく、ネット上のサークルで一番仲の良かったTが入院先へ訪ねてきた。身内以外の者には誰にも伝えていなかったし、仲がよかったTにさえ自身の身に起きていたことは一度も相談したことはなかった。彼の人生まで狂わせたくなかったからだ。

 自身の状況を彼に悟られることがないよう一応仕事が忙しすぎるといった理由でサークルからしばらく離れることは伝えていたのだが、わざわざこうして遠方の入院先まで尋ねてくるなんて一体何があったのだろう。身内には私の癌の話は絶対誰にも話さないように頼んでおいたのだが…。
 久しぶりに会ったTの顔は少し浮かない顔をしていた。そして開口一番に彼はこういった。

「サークル幹部から逮捕者がでました。」

 私は正直驚き、痛みでベッドに横になったいたのに腰を起こしてTの話を聞いた。どうやら私がネット上のサークルから離れた後、大きな事件が起き逮捕者がでたらしい。その件で関係者全員事情聴取されることになったとのことだった。一時期は私もそのサークルにいたこともあったし、彼女のことも間接的には知っていた。だから私にも事情聴取をしたいと刑事さんに尋ねられたようだ。Tはそのことを私に知らせようとしたがなかなか連絡がとれず、私の身内を訪ね入院したとことを知り得て、こうして訪ねてきてくれたらしい。正直気持ちは複雑ではあったが嬉しくもあった。Tへは正直に自身が癌におかされ余命いくばくもないことを伝えると、涙をぐっとこらえながら

「そうですか…」

と静かに答えた。そして、サークルで起きた〝ある事件〟について語りはじめた。

⑤へつづく

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