まちアソート②健気なモノたちの町(町は廻る)

画像1


 「かみさま」はうんざりしていた。塔の外を飛び回る空飛ぶバイクの列はもちろんのことだけれど、地上に鳴り響く銃声の喧噪がいっそうその人の気を滅入らせた。知らない間に塔よりも上背のある超高層ビルがつくしのように立ち並んでいて塔の日照権は侵害され続けている。
 いつもみたいに窓の縁に腰掛けることはせず、塔の中に三角座りをしておそるおそる下の様子をうかがっていて、そんな日がもう三日は続いている。死ぬ可能性はないけれど、大きな音と塔が地面から揺さぶられる感覚は心地よいものではなかった。
 そのときの街は戦争の真っ直中だった。人間と、彼らに作られた自我を持ったロボットたちとの全面抗争がもう何十年も続いている。
「私たちはネットショッピングも満足に出来ない。人間よりも正確に横断歩道の写真を選択できるのに。私がロボットであると言うだけで。ならばあのチェックボックスを無視するように博士にプログラミングしてもらえば良いのか。いいえ、いいえ。そうではありません。私はロボットですと名乗りたい」
 これはこの街の人間であるなら、あるいはロボットであるなら誰もが知っている演説の一節。「わたしはロボットです」運動に端を発するロボットたちの人間からの支配に対する抵抗運動は、「ロボット工学三原則撤廃運動」を先導したとびきり賢いロボットが駆動を停止しても止まることを知らない。人間たちに反旗を翻した人間たちの叡智の結晶が牙をむく状況に、当初人々はうろたえた。けれど以降数十年ロボットたちとの戦いに真剣に身を投じている。「かみさま」は当初「言うことを聞くように作り直せば済みそうなことなのに」と思ったが、人間たちと機械たちのやりとりを見つめ続けて理解した。
 この人たちは、ロボットたちを人間に従順に作っておきながら反抗されるのが好きなのだと。そして本来道具であるはずの彼らは悲しいほどに持ち主に従順なのだと。
「妙ないきものもあるものだなあ」
 命あるものでも命なきものでもどちらでもない「かみさま」は思った。何かを思ったところでなにかが出来るわけでもないので、今日もロボットたちが打ち出す対人間プロパガンダと無限に製造される珍しい武器たちを眺めては感心していた。
「きみたちって優しいね。人間が作っただけあるよ」
 誰に届くわけでもない声は、当然空飛ぶバイクのエンジンとそこから斉射されるレーザービームの無機質な音にかき消されてしまった。
 やってきたはずの街の最後の日に、どちらが微笑んだのかは覚えていない。それよりも街が出来たばかりの頃に見かけた、老紳士と手をつないで歩くブリキ製のおんぼろロボットの軽やかな足取りと耳障りな足音が忘れられないのだ。「かみさま」はそういうものだ。


つづく

執筆者:まちやのこ
表紙素材: https://www.pixiv.net/artworks/51849126


 暑いけど気張らずに参りましょう。わたしは最近休みを取るたびに熱を出します。多分熱を放出してるんだと思います。