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ダイスケ・ツジ 単独サイン会まとめ(2023年4月期)

日本時間2023年4月16日、『ゴースト・オブ・ツシマ』境井仁役ダイスケ・ツジ氏がブロードウェイの舞台『ライフ・オブ・パイ』出演のためNYへ移ってから初のオンラインサイン会が開かれた。ロンドン、LA、そしてNYと、サイン会の開催場所にもキャリアの変遷が…などとしみじみしつつ、いつものように以下、印象に残った部分を抜粋する。実際のアーカイブはこちら



◆本日の特殊事情

イベントはNY現地時間で午前10時から開始。当日もツジ氏に舞台の仕事があったため、終了時間をきっちり決める初のサイン会となった。

D: 今日は午後3時から舞台があるので、遅くとも2時半までには劇場に着いておきたい。2時着ならなおよし、食事もとらなきゃならないこと考えると1時半くらい? だからアラームを1時にセットしておこう。責任ある大人として行動すると同時に、子供の遊び心も忘れずに。大事なバランスだよ、みんな。よし、じゃあ始めます。始めまーす。

なお当日着用していたのはツシマヤマネコ+冥人面頬のTシャツ。

D: 今取り組んでるプロジェクトだから『ライフ・オブ・パイ』のTシャツ着てこようかと思ったんだけど、このツシマヤマネコの『ゴースト・オブ・ツシマ』Tシャツも持ってたことに気づいてね。『ツシマ』とネコ、両方の要素が入ってるでしょ。『ライフ・オブ・パイ』では、3人の操演者が動かすトラのパペットがショウのハイライトのひとつになんだよ。僕もハイライトだけど。っていうのは冗談にしても、トラが見所なのは確か。で、ネコと冥人の両方が入ってるTシャツは、僕の過去と現在がちょうどよく組み合わさってるから、こっちにしました。


◆仁が父親に言ったあのセリフについて

キャラクターが自分を赦すまでの過程がとくに「個人的な琴線にふれた」という購入者さんからの添え書きリクエスト。壱岐編での仁のセリフ、「I will never be like you. The way you live was not my choice. And your death was not my fault.」(「俺は決してあなたのようにらならぬ。あなたの生き方は俺が選んだわけではない。あなたの死も、俺の落ち度ではなかったのだ」)を読み上げたツジ氏は、なにやらハッとした様子。

D: うわ! こんなこと言ってた? 言ってたっけ? 確か正に対して言うセリフだよね。(少し考えて)……面白いなぁ。演技した時はあんまり考えてなかったことだけど、いま改めて読み上げると過去に戻ってやり直したいような気もしてくる。いや、パフォーマンスは問題ない出来なんだけどね。確かにこのセリフ、心にガツンと来るよ。演技した時は自分よりずっとキャラクターのことを考えようとしてた。でも今は僕自身や僕の親にとっても響くセリフというか……って言っても自分の両親に文句があるわけじゃないよ。それでも、いいセリフだなぁ。

D: あとうちの両親は健在なんでね! ふたりが元気でいますように。セリフの「あなたの死も俺の落ち度ではない」ってとこだけは共鳴しないです(笑)


◆決意のトトロ絵?

サイン中、手元のノートにトトロの絵が描いてあった理由についての話が以下。

D: 余談なんだけど続けるね。舞台『ライフ・オブ・パイ』って元々はロンドンのウェストエンドで、別のキャストがやってたんだよ。アメリカのボストンへ移るにあたって、キャストの大幅入れ替えがあったのね。『ライフ・オブ・パイ』はオリヴィエ賞っていう、ロンドン版のトニー賞みたいな演劇賞をいくつもとってて、アメリカでもヒットが見込めるから現地のキャストを起用しようっていう判断。で、最近のニュースなんだけど、みんな見てたかな。今年のオリヴィエ賞で最優秀作品賞を獲得したのって、どの演目だったと思う? そう、『となりのトトロ』。その舞台版がオリヴィエとったんだよ。確か受賞数も最多で、5部門とか7部門とか、奇数だったような(※最優秀作品賞、演出賞、衣装デザイン賞など6部門)。それで思ったんだよね。僕もいまやブロードウェイ俳優で、ロンドン発の舞台に出てるとこでしょ。もしロンドン発のトトロ舞台版がアメリカに来る時がきたら──賞もたくさんとったし、トランスファーしてブロードウェイでひと稼ぎするかって展開はありうるよね。やっぱりみんなそこ狙いにはなるので。そしたら、ブロードウェイで改めて俳優やトトロを起用する必要が出てくる。そう思って、ブロードウェイで次にやりたい仕事の決意表明じゃないけど(笑)、何となくトトロの絵を描いてみたと。お願いだから僕をトトロに出して下さい〜って(笑)。

D:もしトトロの舞台がブロードウェイに来るんなら、商業主義でも構わないから出たい。だってトトロだよ? 大トトロでも中トトロでも小トトロでも、とにかく出たい。ネコバスにもして欲しい。でもまあ、実際出るとしたら現実的な線としてはお父さん役になるんだろーなぁ。あの男の子(勘太)役やるにはもう年がいきすぎてるし。友達のブルック(・イシバシ、後述の「BAO仲間」のひとりでもある『カンボジアン・ロックバンド』共演者)からは「男の子役やりなよ!」って言われたけど、今となってはさすがに適役ではないかなぁと。

ついでにこの後、「ブロードウェイ俳優になるのは夢だったんでしょうか? それとも業界内で他に目指している分野はありますか?」という質問が。

D: どうだろう、夢っていうほどでもなかったような。長年俳優をやってると、けっこうスレてくるんですよ。そうならずにいられる方法ってあるのかな? この仕事をやる喜びも、まだまだたくさんあるんだけどね。でもビジネスの裏面もそれなりに目にするから、食傷してくる。だからブロードウェイも、ぶっちゃけ僕もちょっとスレてたんで、夢だったというほどではないかな。むしろやることリストの項目がひとつ埋まったみたいな感じで「ブロードウェイの舞台出れたな、よし」ぐらい。「ああ! ブロードウェイまで来れたぁ!」みたいな感じじゃなくね。まあそこは自分のこれまでを振り返って、今ブロードウェイで仕事できているという事実を噛み締めて、感謝しなきゃいけないところかもな、とはたまに思ってる。

D:あとまあ、ビジネス対アートの葛藤は今に始まったことじゃないんだけど、業界で他に目指してる分野といったらやっぱりテレビと映画。報酬の額が桁違いなので。ものすごい違い。大差ないんなら僕も、じゃあもう一生舞台がんばりますーってなるところなんだよ。でも全然、ブロードウェイぐらいの規模であってもそうなんだけど、天文学的なくらいの差がある。もっとテレビや映画に進出したいと思わない方がバカげてるぐらいの違いが(笑)。だから、僕の夢としてはどの分野もまんべんなく、ちょっとずつやりたい、ってこと。今のところは本当にラッキーなことに、どの分野もちょっとずつやれてきてるから、まあ叶ってはいるのかな。
で、さっきトトロの話も出たところで言えば、今はウェストエンドからブロードウェイにトランスファーした舞台に出た実績ができたからさ。トトロのブロードウェイ版があるならエージェントに電話して「オーディションに出させてくれ」って頼むつもり。この際言っとこ。「トトロの舞台のブロードウェイ版に出るのが僕の夢です」って(笑)。(ちょうど壮大なBGMがかかっていることに気付いて) 夢に向かって気合いを入れるのにいい感じになってるな。僕は、必ず出てみせる……! やるとしたらお父さんかもだけど! それかパペット担当。小トトロか中トトロか、それか大トトロね! 大トトロは10人とかで動かしてるって聞いた、いやよく知らないけど! 長々答えちゃったけど質問ありがとう。



◆質問:『LoP』のカンパニーにツシマファンは?

D: います! ウスマン(・アリ・ムガル)とフレッド(・デイヴィス)が。ひとりはアンサンブルキャスト、ひとりはパペット使いね。あと今はパイのアンダースタディやってるアディ(・デクシット、ボストン公演ではパイ役のプリンシパル)も『ツシマ』ファンだよ。舞台のオープニングナイトの時、3人にはメタリック仕様の『ツシマ』ポスターをプレゼントした。(手元のサイン用ポートレイトを示して)こんな感じのなんだけど、メタリックなやつね。僕が出演するコンに来てもらえれば、まだいくらか同じものの在庫があると思う。ちょっとお高めではあるけど。3人にあげたら喜んでもらえたよ。この舞台はトラが主要キャラになってるんで、彼らのポスターに書き添えたセリフっていうのも──やばい、ほんとセリフ思い出すの苦手だな僕。「化け物(damon)」って言葉が出てくるやつ、なんだっけ? サインしてるんでその間に誰か、答えを下さい(笑)。なんだっけかなぁ……あっ。「追い込まれれば化け物にもなるのが人というもの」だ!(※訳註: サブクエ「川の子 河童」ラストあたりの仁のセリフ)よかった、僕にもまだちょっと脳ミソ残ってた。劇の内容に合わせて、ポスターに書く時は「追い込まれればトラにもなるのが人というもの」って書き換えたんだよね。舞台を見てもらえれば、何の話かピンと来ると思うよ。


◆『高い城の男』の皇太子役

D: (リクエストを読み上げて)皇太子の写真に「Howdy!(こんちは)」と書いてもらえますか、と。書きましょうとも。日本語と英語で書いてみます。みんな『高い城の男』観たことあるかな、このセリフは僕も大のお気に入りなんですよ。日本の皇太子が、アメリカの民衆と心を通わせようとしてるセリフだから。で、僕は強めの日本語なまりで「はうでぃ」って言う。えーと日本語でどう書くんだっけ。よし。(皇太子の写真に対してのものと思われる日本語のコメントを見て、日本語で) 「イケメンすぎる」? うーんまあ、何年か前のことですけど(笑)。(英語で)できた。『ツシマ』以外の写真も注文してくれて嬉しいです。僕が『ツシマ』以外の仕事もしてるんだぞってことに目を向けてくれて(笑)。って言ってもね、もちろん『ツシマ』での仕事は自分でも誇りに思ってますよ。

(※訳註: 「Howdy」の一般的なイメージは、西部のカウボーイ風挨拶。ツジ氏演じる皇太子は、被占領国であるアメリカの聴衆から笑いをとれて少し嬉しそうな、安堵したような顔つきになる。が、その直後銃撃される)



◆「Playbill」との知られざる攻防

ブロードウェイの劇場で配布される冊子「Playbill」には、「WHO'S WHO IN THE CAST」という公演中の舞台のキャスト紹介コーナーがある。執筆者はだいたいキャスト本人で、2023年4月現在の「Playbill」にもツジ氏による自己紹介が載っているのだが、それにまつわる裏話がこちら。

D: 人の誤字脱字に敬意を払いたい時もあるんだよね。この話ってもうしたっけかな。ブロードウェイでは「Playbill」っていうのがあって、俳優の略歴が載ってるんだけどさ。僕の友達──中華料理の「包(bao)」を食べて親睦を深めたから「BAO仲間」って呼んでる友達がいてね。「Playbill」でも彼女たちのことにふれて、そのまま「BAO仲間」って言葉を本文中に入れてもらったんだよ。そこはよかった。でも実は、「ブロードウェイ・デビューを果たして」ってとこのスペルも、ホントは「Broadway」じゃなく「BRAODWAY」にしたかったの(笑)。「Playbill」側はそこをスペルミスとみて修正してくるんだよね。向こうはやっぱ間違いがないかチェックするでしょ。直しては直し返され、ってことを何度か繰り返してさ。最初の2度くらいは素通りできてたけど、結局「BRAODWAY」は「Broadway」に直されちゃった。「Playbill」の目をかいくぐるのは無理だったよ(笑)。まあそうなるのもわかるんだけど。僕としては、意図的なスペルミスなら尊重していきたいっていう話でした。


◆日本語でのサイン

D: 日本語でのサインってよくは知らないんだよなぁ。日本語のちゃんとしたサインはいくつか見たことあるけど、もう、ホントすごい立派なの。日本の有名人には創意工夫をこらしたサインしてる人もいるし。僕が唯一自分の日本語サインでした工夫っていったら、名前を繋げたことぐらいだよ。ここんとこが辻、ここが大、このへんが介ね。全部ひとまとめにしてみた、簡単なやつ。いやまあ、ちゃんと満足はしてるよ?(笑) 日本ですごい有名人にでもならない限りは、日本語サイン考える必要もないかなって──これも一応考えたやつではあるけどね。日本でサインしたことあるのって1回だけで、東京にあるPrime 1 スタジオでだった。確か新宿だったかな? サイン頼まれて、境井仁スタチューにサイン書いたんだよ。あ、自分で買った方のスタチューはいまLAの倉庫に眠ってるんだけど(笑)。あと、何ていうんだっけ、シキジ? ってやつ。サインを書くちゃんとした紙のこと。あれにもサイン頼まれて書いたんだけど、紙のサイズが大きいんで、できるだけ大きく書こうと頑張ったんだよね。わ、勝手が全然わかんないけど書いてみよ、って。あれが日本でお願いされた唯一のサインだった。(※訳註: ドラマ『インベージョン』の撮影で日本に滞在していた2021年当時の話。ロケ中、たまたま近くにいた通行人に気づかれて記念撮影に応じたりもしていたそう)
スタジオにきた有名人にはみんな同じように頼んでるんだろうね、他の人のサインも見かけたんだけど、あの大きな──色紙か! そう、その色紙の余白を埋めきって名前書いててさー。曲線がきいてて、もうアートワークみたいなサインなの。ちょっとインポスター症候群っぽい気持ちにもなったなぁ。僕のサインは小さめなのに対して、その人たちのサインは色紙をめいっぱい使って書かれてたから。で、もし日本で有名人になるようなことがあったら、ああいうの考えなきゃいけないのかもなーと思った。今のところはこの素朴な(笑)名前で行くけどね。単純明快なサインで。



◆サインリクエスト「最高の格言ください」

D: 「知ってる中で最高の格言を書き添えください」ってことだったので、「最高の格言」をググりました(笑)。だって自分の脳ミソの中の記憶で書こうとしたら絶対間違えるからさ。みんな「知ってる中で最高の格言」ってある? まあとにかく、ひとついいのを見つけたんだよ。賢い人たちの格言集みたいなサイトがあって、そこに最初に出てた格言を読み上げます。配信だから仁の声で読むね。

「生きていく上で何より偉大な栄光は、一度も転ばないことではない。転ぶたびに起き上がり続けることである……」

ネルソン・マンデラの格言でした(笑)。サインに彼の名前書くべき? それとも仁が言い出したかのようなフリしちゃうか(笑)。マンデラが境井仁の言葉を引いたんであって、最初に言ったのは仁でーすみたいに。まあそれはウソ、マンデラのサインもしないでおきます。この格言がいいなあと思ったのは、仁が言いそうなことだなと思ったからで──(最初にセットした時計のアラームが鳴り出す)うわもう1時だ! なのにサインの残りはまだ18件もあるー、ヤバイなぁ。まずはこれ書いちゃうね。……「何より偉大な栄光」かどうかはわからないけど、何度転んでも起き上がるっていうのは仁もずっと実行してたことだし、通じるものがあるんじゃないかなと思ったんだよ。


◆小ネタアラカルト

こちらでは配信中にポロッとこぼしていた謎発言や小ネタなどをいくつかピックアップしてみる。

・(新規追加と思われる、火柱を背にした境井仁の写真を解説中)初めて見るやつだ。ゲーム内での写真だよね、すごくいい。これ、キャンプファイアの前で僕がスモア焼いてるとこか、火に向かってオシッコしてるとこかも。で、僕のオシッコが油だから火柱が立ったっていうね。

・(例の「追い込まれれば化け物[damon]にもなるのが人というもの」というセリフを書き入れながらのひとりごと) デーモン……マット・デイモン……「追い込まれればマット・デイモンにもなるのが人というもの」……へっへっへ……(満足気に笑った後、小声で) 疲れてます……。

・(毎日ワークアウトするよう激励メッセージを書いて欲しいというリクエストにマジレス) でもワークアウトは毎日やらない方がいいよ。1日おきがいいかもね。で、その空きの1日は歩くだけにしとくとか。毎日ワークアウトしてるとケガに繋がりかねないから。

・(何かロマンチックなことを言って欲しいというリクエストに対して) これは配信で言って欲しいってことなのかな、それともこっち(サイン)に書いて欲しいってこと? 何かしらは書かなきゃなので。でも僕が思うロマンチックって言ったらこういうのだよ。(仁の声で)
「ピザ……」
「アイスクリーム……」
「ピザはどうだ……?」

はい、ロマンチックでした。
(このあと原語版の仁がゆなに言っていた「俺も対馬の民のためならばこの命を捧げよう……そして、お主のためにも」や、「ピザよ……そなたこそ我が人生の光」「ピザでも……食いに行くか?」などの候補の中から、ゆなに言ったセリフが添え書きとして採用された。ちなみに日本語版ではおそらく尺の問題で「お主のためにも」部分は訳出されていない)

・サイン会配信中にサインを購入した方向けには、また別の日にシャウトアウトつき配信をやる意向。「僕、人にコビ売っちゃうタチなんで。あとはファンの数もさほど多くないからね。これ見てくれてるステキな皆だけ! 気力も充分なんで」

・サイン用写真のチョイスがやたら『ツシマ』関連のものばかりなのはStreamilyの意向らしい。いわく「仁のやつが一番売れると思ってるんじゃないかなー。でも僕俳優なんで、それだけがクレジットってわけじゃないんだよ ?」。今後はオニ・ワタナベやサンダーなどの追加もありうるとのこと

・サンダー役で出演した『フォートナイト』はもうPS5にダウンロードしてあるものの「プレイするのが怖い」

・「Horizon Forbidden West」のDLCは先週予約済み。最近舞台を見に来た友人の同行者が、たまたまDLCのメイン仲間キャラ・セイカを演じるカイリー・リヤ・ペイジだったという話も改めて紹介

・「『Legends』はやってるけど最近ゲーム本編はごぶさただったから、リリース記念日の時期になったらまたやってみようかな。Dechart Gamesもそういう機会に『デトロイト』やってたよね。僕が次やるんなら、スピードランとかにしようかな」

・サイン会第1日目の終了予定時間過ぎにチャット欄に登場して「そろそろ時間なんじゃないの?」「食事もしなきゃなんでしょ」「ダイス、もう劇場行きなさいって」とリマインドしてあげる典雄役アール・キム(と、それをよそにポストカードプレゼントコーナーを始めるツジ氏)