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ソフィア・奮闘篇

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光の戦士ソフィア・フリクセルの少し古い戦いや日常。
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白妙と恩徳と

「よくも、私の仲間たちを……!皆、自由を信じて戦っていたんだッ……それをッ……!」 「死んだ仲間が、復讐を望んでいるのか……?信念のためにこそ武器をとっていたのではないのか?」 「黙れ、黙れ、黙れッ……!蛮族が軽々しく、私の仲間の想いを口にするなッ……!」 怨嗟の声をまとった魔法が乱れ飛び、優勢だったレジスタンスの陣形が崩れていく。まずい兆候だ。わたしは更に飛来する魔法弾へ盾を投げつけ相殺する。ワイヤー巻き上げ機構で手元へ戻ってきた盾の衝撃を受け流しつつ、わたしは

魂よ、どうか星海へ

前回「コロス…」 足元から不意に立ち上がってきた呪詛の言葉は、叩きつけるような豪雨の中にあって、たしかにソフィアの耳に届いた。迂闊。あの人馬一体のルカヴィ、シュミハザは自在に霊魂や死者を操るとされる存在。突然足元から敵の尖兵が現れてもおかしくはないというのに。 脛が強い力で締め上げられる。落ち着け。ソフィア振り向きざまに足元へ剣を振り下ろす。それで終わるはずだった。その死霊の顔を見るまでは。 「ユンブ…?!」 不浄の泥濘にまみれたぼろぼろの死霊は、かつて自らが手

されど英雄は剣を取る

陽も差さぬ洞窟の底、壁面からわずかに突き出た幾ばくかのクリスタル片が放つ光が照らし出すのは、美しい羽を携えたウミウシの魔物、ソルトスワローの群れである。青く彩られた妖精のような姿をひと目見ようと、わざわざこの水没遺構スカラまでやってくる冒険者も少なくない。巨大な個体を捕獲して騎獣にした者もいるという噂も聞く。 だがソルトスワローは妖精でもなければ愛玩動物でもない。人間すら平気で襲うれっきとした魔物だ。その群れが狙うエモノは、広間のようなこの区画の中央にいる。編み込み髪のヒ

月の女神がおらずとも

新月の夜は月神メネフィナ様が山神オシュオン様の元に行っておられる。オシュオン様とメネフィナ様は恋人同士だからだ。メネフィナ様が夜道を照らしてくれないと嘆くのではなく、睦まじい神を敬い、出歩かずおとなしく寝るのだよ。 この地方の子供はそんなお伽噺を寝物語にして育つという。エオルゼア十二神の伝承はもはや何が真実なのか分からないほど多様だが、そうやって生活に根付く規範が最も素朴な信仰と言えるだろう。だから、この新月の夜をただ仕事のしやすい時間と考えるこの男達に真に必要だったのは

それでもあなたに生きて欲しい

流水が私の身体から汗と汚れを落としていく。その汗臭さを好む客もいるけれど、今日の相手…私の雇い主だ。そいつはまず入念に身体を洗えと言ってきた。どうせめちゃくちゃに穢してしまうくせに。私は無感情に身体を洗う。 「オイ!いつまでやってる!さっさと来い!」 自分で言ったことも忘れたのか。だが泡のまま出ていったところでろくなことにならないだろう。私は出来るだけ丁寧に身体を洗う。この後の苦痛を先延ばしするように。 不意に浴室の鏡が目に入る。齢19とは思えぬほど暗く沈んだ自分

七夕の冒険

「タナバタ?」 「そう、ひんがしの国のお祭り」 私は市場の植木屋で買った大きな鉢を床に置いた。立派な竹に青々と笹が茂っている。今回の「掘り出し物」だ。 「処暑から数えて…あぁこっちは暦が違うね。えぇと」 私は懐から暦の対応表をパラパラとめくった。 「星4月14日、それが今年の七夕の日」 「少し先ですね。どういうお祭りなんです?」 「織姫と彦星…えぇと、アルタイルとヴェガか。夏の夜空に、ミルキーウェイを挟んで光る星があるでしょう?」 ふむふむと頷くソフィアを尻目

邂逅の荒野

「ムーッ!ムグーッ!」 手を縛られ猿轡をかまされてなお抵抗するヒューランの娘に、ルガディン族の男達は苛立ちを募らせる。 「…おとなしくしろッ!このアマ!」 「グッ…!ウゥッ…!」 「おい、まだ殺すなよ?」 「うるせぇな、どうせ殺すくせによ」 殴打され力なく項垂れる娘を、男達は荒野の立木に繋ぎ止める。ニヤニヤと笑いを向けながら、罠にかかった獲物を取り囲んでいた。 自由を奪われた娘は、育ちの良さそうな顔つきを歪め、恐怖に慄いていた。そして一方で、これが

潜入!帝国の秘密兵器を撃滅せよ!

「…おまえら、誰だ?」 鉤鼻の船長は鋭い目で部下を見る。問われた部下2人…フードを深く被った女船員は、停泊作業を止めて顔を見合わす。 「えっ…?そんな、もうお忘れですか?わたしたち、昨日から乗り込んでるソニアと」 「ルルですよ?」 東ラノシア沖、炎天下。女達は突然向けられた疑惑を晴らそうと乗船の動機を改めて語る。断罪党のシカルドも懐柔された今、昔ながらの海賊をやれるのは、あなたのところしかない。だから転がり込んできたのだと。 「ヒルフィルも所詮は腰抜けですからね!」

恋と英雄

昼間の灼熱がまだそこにあるような生ぬるい風が安宿の部屋に流れ込む。窓際のテーブルセットから立ち登る紫煙。タバコを咥えて座っているのは紫髪のアウラ・レンの女だ。下着姿の彼女…イズミは吹き込むゆるやかな風に吹かれながら、アウラ族特有の側頭部のツノに、丹念にクリームを塗り込んでいる。ツノの手入れだ。 手入れをしながら、イズミは室内に目をやる。立て掛けられた愛刀。乱暴に脱ぎ散らかされた2人分の衣類。ベッドでこちらに背を向けて高いびきで眠る大柄なアウラ族の男。イズミは視線を窓の外の星

そして再び、火は灯る

灯りの消えた回廊で少女は立ち尽くしていた。 折り重なる無惨な遺体。目を逸らした先にも朽ち果てた屍。扉の先へ逃げ出しても、血まみれの廊下が無限に続く。夥しい血が足を濡らす。遺体の全てが、濁った瞳で少女を見つめていた。 その中に混じって、仮面姿のシルフ族が少女を見ている。やがて仮面はひとりでに割れはじめ、その素顔が晒され— ◆◆◆ 教会に響き渡った絶叫を聞きつけ、神父イリュドは叫び声の主の部屋をノックする。大丈夫ですか、ご無事ですかと。数日前から逗留している冒険者の少女は

過ぎゆく日々を見送って

サンは荒野の彼方に現れた女を見つける。ゆっくりと歩みを進める小柄な女は白く染め上げたコートを羽織り、装飾の施された剣と盾が夕陽を受けて煌めいていた。騎士である。サンは煙草を魔力で焼き払い、立ち上がる。 ソフィアは彼方に待つ銀髪の赤魔道士を見る。その姿が黒に染まって見えるのは、夕陽を背にしている事だけが原因ではないだろう。漆黒の意思。ここに至り、ソフィアは僅かに抱いていた和解への希望を完全に捨て去った。 誇りにかけて譲れぬものがあった。 この二人にとって、それが同じではなか

重ねて、小さな喜びを

「次は何に乗りましょうか!リリアちゃん!」 「フガフガ」 「あっチュロス食べてからで!食べてからでいいですから!」 「フガフガ。ソフィちゃんも食べていいよ。シェアするやつだから」 「やったー!」 ゴールドソーサーの煌めく灯りの下、水兵風の服を翻し、ソフィアはリリアから渡されたロングサイズのチュロスを頬張る。東ラノシア海岸の騒動を治めた彼女らに与えられた報酬に、ゴールドソーサーアトラクションのフリーパスも含まれていた。普段出入りしないエリアに行けるとあり、彼女らは予定

託したるは、銀剣の誓い

注意:蒼天のイシュガルドと漆黒のヴィランズのメインクエストに触れています 「…また、護れなかった」 強行突入による混乱が続くイシュガルド教皇庁正門脇。陽が落ち、雪の舞う夜空の下、わたしは自分の手を見つめながら、ぽつりと呟いた。 「わたしが…もっと強ければ…」 「彼は死ななかった、とでも?」 トリニテ…犬先生の声が降ってきた。わたしたちの突入に援軍として加わり、全てを見届けてなお、今もわたしの隣にいてくれている。 わたしは先生の言葉に応えず、俯いていた。かつ、かつ、

融雪の雨に(Savage)

「な、なにをする! 貴様、約束が違うぞ!! 」 ヤツルギのユキは己を縛り上げる灰犬一家船員に抵抗する。 「宝を渡せば、人質は解放すると…!!うあッ!」 「お姫様ってのは、世間知らずなもんよねぇ! 」 抵抗虚しく縛り上げられたユキを大柄な影が見下ろす。ハルブレイカー・アイルの陽射しを遮るように、灰犬一家頭領ロザリンデがユキを侮蔑的に見下ろしていた。 「いい? 女ってのは嘘が武器なの…覚えておきなさい。」 地に伏したユキの白いツノを撫でながら、ロザリンデは勝ち誇る。こ