見出し画像

NovelJam2018編集後記

※この記事は2018年2月19日にMediumで書いた記事の転載です。

2月10日~12日の3日間、「筆者」「編集者」「デザイナー」が一堂に会して、2泊3日で小説を作り上げるという「NovelJam」が開催された。
一週間経った今、このNovelJamが、既存の編集者にとってもいかに有用かということを述べたいと思う。

参加した理由

そもそも僕がこのNovelJamに参加しようと思ったのは、自分の経験値を上げるためだ。
僕は、商業誌の編集者としてあるいは技術書の編集者としての経験はあるものの、それはノンフィクションの分野での経験であり、小説、いわゆるフィクションでの編集経験は皆無に等しい。
しかし、カクヨムや電子書籍といった、編集を通さなくても出版できるシステムが多くある現状で、小説の編集を経験すること自体、非常に難しい状況となっている。
このNovelJamは、2泊3日の短期間ではあるものの、小説の編集を体験することが出来るという。さらには編集経験も問わないとあれば、これは参加しない手はない。
そして、このNovelJamに参加して分かったのは、編集者としての自分の強みと弱みだ。これがたった3日間だけで詳(つまび)らかになっただけでも、僕はこのNovelJamに参加して良かったと思う。

僕が心掛けたこと

さて、今回のNovelJamで、僕が最初から心掛けたことがある。それは「筆者に気持ちよく書いてもらう」ということである。
たった2泊3日で小説を作り上げるのだ。その間に編集者と筆者が対立して、本が出ないことがあればそれは最悪の結末だ。
途中の講演で、有名編集者である三木一馬さんが言ったことで、いちばん心に残ったのは「編集者は読者の立場に立ってはいけない。筆者の立場に立って、筆者と同じ方向を向くこと」。
そういった意味で、僕はなるべく筆者の書きたいように書いてもらえるように環境を整えることを心掛けることにした。

チーム決め

今回のチーム決めは、会場に着いて、その場で決められた。最初に編集者がプレゼンを行なうわけだが、そのプレゼンを見て筆者が編集者を選ぶ方式だ。
そんな中、僕のプレゼンのどこがどう響いたのか分からないが、僕のところにも2人の筆者が決まった。金巻ともこさんと渋澤怜さんだ。
この2人、実は性格も作風もまったく正反対の2人だ。一方で共通しているのは、両方とも文章力に長けているということ。これは僕にとって非常に幸運なことだった。そして、前回参加者の澤俊之さんもデザイナーに加わったことで、ウチのチームは最高のチームになったと思う。

金巻さんの場合

まずは著者の1人目の金巻さんの場合、実は僕はほとんど口を出していない。最初に彼女の文章を見たとき、あまりの完成度に開いた口を塞がらなかった。これは後にわかったことなのだが、彼女はいくつもの本を書いており、また文章の書き方を教えている立場の人でもあった。そりゃ上手いわけだ。
だから彼女には、最初のプロットのときに少しアイデア出しを手伝ったことと、あとはちょっと膨らませたほうがいいと思った部分を提案したくらいで、後はなるべく口を出さないことにした。
それでもあの完成度を出せるのだから、やはり彼女はプロだ。叙述トリックは、ひとつでも間違えればネタバレになるので難しいのだが、そこのギリギリのところをきちんと書いていて、もうさすがとしか言いようがない。

渋澤さんの場合

2人目の渋澤さんの場合は、まったく逆だ。文章は上手いが、荒々しい。彼女の場合は、多分ディレクションによって、その(評価の)善し悪しが大きく左右されると思った。つまり、もの凄い良い作品が生まれるか、もしくは全くの駄作が生まれるか。まさに「天才肌」という言葉がふさわしい。
僕は彼女の文章から漂うアンニュイさ、あるいはアイロニカルさは何とか活かしたいと思った。これが彼女の文章の魅力だからだ。
なので、彼女が「Twitterについて、そこの住む人たちのことをTwitterの文章で書きたい」と言ったとき、僕は一発でOKを出した。これほど彼女の文章を活かせるテーマは他にないのではないだろうか。
あとは、彼女の文章を見てもらえば、今回の作品がいかに秀逸かは分かっていただけるだろう。

僕の弱み

今回の2作品は、残念ながら審査員賞を逃している。その理由として審査員の方々から、大きくいってそれぞれ1つずつ、評価をもらっている。
「僕は彼の肉になる」では最後の「。」が、「ツイハイ」のほうは地の文が余計だ、という評である。
これらについては筆者の2人もいろいろと言っているが、正直言って彼女らには罪はない。なぜなら、この2点は、初校の段階ですでに話し合われていた内容だからだ。

しかし、この2点は、私もそうは思っていたものの、懸念点がひとつあった。それは、そうすることで「NovelJam」としては評価されるものの、一般の読者には評価されないのではないか、という点である。
「僕肉」に関しては、「。」をつけないことで、発表されたテーマには沿うものの、たとえばそのテーマを知らない人には、未完成の文に見えてしまうのでないか。
一方「ツイハイ」のほうは、地の文がないほうが面白いとは思ったが、もしすべてTwitter文にしてしまったら相当読みにくいのではないか、と思った。
つまり、僕にとってこれらの作品が「NovelJam」の中だけで消化されてしまうのがもったいないと思ったのだ。それほど完成度の高い作品だった。

そして、これは僕の弱みでもある。もし僕がここで心を鬼にして「いや、こうしたほうが絶対審査員ウケがいいからそうすべきだ」と押し通せば、2人とも賞を取れていたかもしれない。いや確実に取れていただろう。そこを押し通せなかったのは、僕の弱さだ。だから、今回の賞を取れなかったことに対して責任があるとしたら、明らかに僕である。

三日間で明らかになった「強み」と「弱み」

NovelJamは斯様に編集者の弱点を焙り出す。まさかわずか3日でこのようなことがわかるとは驚きだ。しかし、この弱点がわかっただけでもこのNovelJamに参加した意義は大きい。
もし現役の編集者で伸び悩んでいる人やあるいはこれから編集者になりたいと思っている人は是非参加してほしい。自分の「弱み」と同時に「強み」も分かり、これからの「編集者」人生の大きな指針となり得るだろう。
そして、そこで作った書籍が売れれば、編集者にとってこれほどの喜びはないはずだ。自分が担当した本が多くの人に読まれること、それ以上の幸せはないのだから。
・・・というわけで買ってもらえると嬉しいです!

※編集者と著者の話にばっかりなってしまったけど、これらの本が皆の目に留まるのはもちろん澤さんの表紙のおかげ。澤さんには途中のプロット作りにも参加してもらって、ホント、頭が上がりません。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?