百十九話 あっかんべー
喫茶店『天使の扉」で働いている私…。
翼さんが休憩していいと言うので、控え室で休憩することになった…。
そこにVRゲームをしている摩耶が、いたのである…。
なんやかんやあって、摩耶とどっちが翼さんのことを好きかを言い合うことに…。
二人でああだこうだと言ってる声が、店の方まで聞こえたのか…。
翼さんが、控え室に入ってきた…。
私が摩耶をいじめていると言い張る摩耶…。
そして、摩耶は翼さんに、抱きついて訴え始めたのである…。
うるうる涙目で、上目使いで訴える摩耶…。
ぐぬぬ…。摩耶め…。いかにもあざといやり方を使いおって…。
「翼さん、そもそもなんで摩耶は働かないで、ここでゲームなんかしてるんですか…?」
私は悔しさを噛み締めながら、言った。
「この子、親にネグレクトされちゃってるの…。すごいかわいそうな子だから大目に見てあげて」
翼さんは私の耳元で、摩耶に聞こえないように囁いた…。
「だから施設にいたり、近所にいた私が預かったりして育ててるのよ…」
ネグレクト…?なんだっけ?どこかで聞いたような…?
思い出した。育児放棄のことだ…。摩耶は親に育児放棄されたのか…。
私はついこないだだけど、親に精神病院の施設に入れられそうになって家出してきたのだ…。
遅めの育児放棄とも言えないだろうか…?言えないか…。
少し…。少しだけだけど摩耶に親近感を持った…。
もちろんそれは私の身勝手で、自分勝手な感情だけど…。
だから、摩耶にとっては、翼さんは姉であり母親でもあるのだなぁと、納得できた…。
「それにこの子まだ中学生だから、お給料出して働いてもらうわけにはいかないの…」
中学生は、そういえばバイトもできないのか…。
やれても新聞配達ぐらいかな…?
思わず、私は摩耶がメイド服のまま、新聞配達をしている情景を想像してしまった。
メイド服で、自転車こいで新聞配達をする摩耶…。
親に見捨てられ、肩書きはメイドだけど、貧乏なので新聞配達をしているなんて…。
貧乏苦学生で、そんなに頑張って、なんていい子なの?摩耶は…。
雨の日も雪の日も、健気にメイド服で新聞配達する摩耶…。
私は思わず首を横に振り、想像を打ち切った…。
自分の想像で、感動して泣いてしまいそうだったからだ…。
何はともあれ、摩耶は摩耶で苦労しているんだなと思った…。
ふと、摩耶の方を見るとまだ翼さんにしがみついている…。
摩耶は私の方を見て、なんとあっかんべーと舌を出しているではないか…。
せっかく少しは同情してあげたのに、台無しだ…。
私も負けじと、大きく舌を出し、あっかんべーを仕返したのであった…!
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