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パイナップルロボ 第2話

パイナップルロボは、5人の若者に囲まれていた。渋谷駅前で人間観察を行っていたところ、「パイナップルロボじゃね。」と声をかけられたのだ。パイナップルロボの存在は、SNSで拡散され若者を中心に知名度が上がっていた。5人グループの内の一人のギャルが「写真撮ろうよ~」と声をかけ、パイナップルロボが許可を出す前に撮影を開始し、その写真をすぐさまSNSに投稿している。

(ギャルと呼ばれる人間は、実にフランクに接してくる。自分で言うのもなんだが、得体の知れないロボと距離を詰めるには警戒心が無さすぎる。)

「パイナップルロボっていつも何してんの?」とギャルが聞いてきたので、「人間を観察しデータを集めています。」と答えると、「超ロボじゃんwウケるw」と笑い始めた。

(パリピ及びギャルと呼ばれる人種は、何の思考も介さずに笑うという特性を持っている。先程も、「もう冬じゃね、ウケんだけどw」と言っている人間を見た。)

その後も、「何かやってよ!」と言われたパイナップルロボが、右わき腹から充電コードを出すと「マジロボw」と笑われたり、「どこから来たの?」と聞かれ「博士の部屋から。」と答えると、「博士はロボ過ぎw」と笑われたり、ロボであることを確認するだけの時間が続いた。

すると、1人のギャルが「ロボでも裸は寒くない?」と言い出した。「体温調節機能が備わっておりますので、問題ありません。」と答えると、「寒くなくても裸はまずいでしょ。」と返される。見た目が寂しいとか、裸はロボ過ぎとか、いろいろと言われた後、「それなら、今からパイナップルロボの服買いに行かね?」という提案から、近くのセレクトショップに行くことになった。

(この若者たちは、私がロボであることを疑っていないようだ。)

ギャルたちとセレクトショップに入る。店員は最初戸惑っていたが、ギャルたちがパイナップルロボと自然に会話をしているため、すぐに状況を受け入れていた。店員とギャルたちはすぐに意気投合し、パイナップルロボに似合う服を探し始める。

「パイナ!これ良いじゃん!」と、ギャルが選んだTシャツにはサーファーが描かれていた。「Tシャツの形状では、頭部のパイナップルを通過することが出来ないため、着用出来ません。」とギャルに伝えると、「ウケるw」と笑った。そんなやり取りを見て、「これはどうですか?」と店員が選んだのは、赤いアロハシャツとハーフパンツだ。

(今の季節は冬だが、頭部のパイナップルのせいで店内の季節感がおかしくなっている。季節外れの服ではあるが、せっかく選んでくれたのだから、試着をしてみよう。)

赤いアロハとハーフパンツを着た姿をみんなに見せると、「めっちゃ似合ってんじゃん!」、「ロボ感なくなったよ!」、「そっちの方が可愛い!」と好評だった。しかし、南国パイナップルの要素が強くなり過ぎていた。

(たしかに、ロボ感は薄れたが、マスコットキャラクター感が強くなり過ぎている。私は、あまり目立たずに行動したい。パイナップルの頭部だけでも困っているのに、これでは全身パイナップルになったも同然だ。)

「少し、派手過ぎます。」とパイナップルロボは正直な気持ちを伝えた。その後、いろいろな服を試したが、似合うものは無い。悩んだ末に店員が、「こういうのもありますけど?」と緑のジャージを持ってきた。試着してみるとサイズはぴったりだった。

(頭部のパイナップルとの相性も悪くない。しかし、ジャージ上下では、スポーティーな印象が強すぎる。スポーツとパイナップルという組み合わせは違和感しかない。)

「ジャージの上に、下はこれでどうよ?」と、ギャルの友達の男が太ジーパンを勧めてきた。パイナップルとの相性やアイテムの無難さは、パイナップルロボの要望に応えていた。パイナップルロボは結局、緑ジャージの上と太ジーパンを購入することに決めた。ギャルたちは、「ちょっと地味じゃな~い。」と言っていたが、男友達には評判が良かった。

レジで金額を確認すると、2点の合計金額は27,600円だった。

(私に内蔵されている決済システムは博士のクレジットカードに紐付いているので、27,600円の支払いが問題行動として認定される可能性はあるが、もう後には引けない。)

購入した服は、すぐに着用するためにタグを切ってもらった。初めて購入した服に身を包みパイナップルロボは店の外に出る。するとギャルたちは、「パイナって他に困ってることないの?」と聞いてきた。

(私は、いつからパイナと呼ばれていただろうか。)

「充電できる場所を探すのに困っています。」と答えると、「充電に困ったらうち来なよ。」とギャルからは驚きの答えが返ってきた。

(パイナップルロボを家に招くことに抵抗は無いのだろうか。コミュニケーションが取れるからといって、そんなに警戒を解いてくれるものだろうか。かく言う私も、最初はギャルたちを警戒していたが、今はギャルの家で充電をしても大丈夫だと思ってしまっている。)

パイナップルロボとギャルたちは、連絡先を交換し友達になった。

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