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「ネイビー・ブルー」のはなし。

大学生のとき。
ぼくは軽音楽サークルでバンドをやっていた。
同期を絶望させるレベルで歌が下手で、つくる曲はどこにも刺さらず、いつも何かにゆきづまっていた。

そんな頃。いつもの道をひとりで歩きながら、夜の始まりの空をなんとなく見上げた。そうしたら、大きい大きい鯨の形の雲と、それに寄り添う羊雲が浮かんでいた。
そして頭の中にコトン、とメロディが落ちてきて、
群青色の空、鯨が游ぐ。寄り添うような羊の子。
と、そのまま歌い出した。

それまで作ってきた曲とは世界観もサウンドのイメージも全然違った。だから特別で、大切な歌になった。
ぼくが作っていきたい世界観はこういうものだったのだと、あの日の空が教えてくれた。

…まあ、それで劇的に音楽性やセンスが爆発したりはしなかったのだけれど。

大学卒業後も地道に音楽を続けてみて、いまの歌声や曲作りの空気感がちょっといい感じになってきたので、改めて歌ってみたらやっぱりいいメロディだなーと思った。せっかくなら絵も描いてみようと思った。歌のイメージに合わせたとっておきのやつ。

それがデザフェスで描いた絵にまつわるはなし。

なかなか報われなくてしんどいことばかり。些細なことで落ち込んだり、上手くいかなくて焦ったり。
いろんなことがあったなあ、と筆を動かしながら思い起こしていた。手を止めて振り返るとたくさんの人が目をきらきらさせてぼくの絵を見てくれていた。なんて幸せ者なんだろう。やっとここまで来れた。あの日の空をみんなで見てた。小さい子も、ご年配の方も、普段絶対喋れないようなかっこいいお姉さんや、あの日のぼくくらいの若い少年少女たちにも、みんなに見せれた。

「いつか、この絵を見た人が何かに行き詰ったときに夜空を見上げたくなったらいいな」

そんなふうに思いながら最後にサインを書いた。
夜空を見上げた時、鯨や羊がおよいでるかもしれない。もしかしたら犬や猫かもしれないし、ただ広い空があるだけかもしれない。雲が広がりすぎて、全体が見えないくらい大きな大きな鯨が横たわっているかもしれない。
いろんな想像をしているうちに、何かすこし可笑しくなって、心に小さな風が吹けばいいと思う。

余談、

「辛い日々があったからこそ〜」とか、
「たくさん傷ついた分優しくなった〜」とか
絶対に言いたくない。辛いもんは辛いし、痛いもんは痛いのだもの。できることならそんな思いしない方が穏やかに過ごせると思う。だからしんどい日々のおかげで今がどうにかなってる、とは思いたくない。

しんどい日々のなかで、なんとなく頑張っていたのであろう自分がいたから今があるのかな。と思う。
そっかー、あの頃のぼく、頑張れてたんだなーと思うとちょっと安心した。


何にせよ、いい絵が出来て良かった。
誰かに届いてよかった。
描かせてくれてありがとう。見守ってくれて、どうもありがとう。
きっと元気になって戻ってくるから、
それまで待っててね。
また大きい大きい絵を描きたいから、ぼくはしばらく治療をがんばります。

あと画集もね、待っててくれるひとがいてうれしいから、たくさん絵を描いて、年内に「こんなの出すからね!」って言いたいな。


ふみ

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