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強さは美しさだということ。

 強い人でありたいと思っていた。生きているといろいろな出来事に遭遇するけれど、何かあっても果敢に立ち向かって、負けないし、逃げることもない——そんな強さが欲しかった。たとえ人生そのものを中断したくなっても、生の舞台から降りるほどの勇気なんてなく、自分の足で踏ん張ってなんとか生きていくしかないから。
 結局のところ、理想とする強い人にはなれなくて、嫌だと感じればスッとやめてきた。続けることを安易に放棄する。戦わずして静かに去る感じ。恥ずかしい話だが、人生でそんなことは何度もあった。今でも中途半端な人間という自覚がある。
 ただ、強さとは何だろう。負けないことなのか。逃げないことなのか。そんな問いを投げかけ、取材対象者の言葉や行間から考えさせてくれるのが、『女の答えはリングにある 女子プロレスラー10人に話を聞きに行って考えた「強さ」のこと』(尾崎ムギ子、イースト・プレス)だ。
 著者は『最強レスラー数珠つなぎ』(イースト・プレス)を著書に持つ、プロレスラーへのインタビューを多くしてきた尾崎ムギ子さん。著者の書籍やWeb記事すべてに共通するのが、60分1本勝負の試合を全力で行った後、消耗しきっているプロレスラーを想起させるような、心身を限界まで削りながら書き上げているのを感じること。ここまで魂を捧げて書くことができない私は嫉妬心を抱くというより、自分には到達できない場所を見上げている感覚に陥る。
 『女の答えはリングにある』も、前作の『最強レスラー数珠つなぎ』を読んだとき以上に沼にずるずると引き込まれ、気づけば一気に2/3以上読んで慌てた。このとっておきの時間をすぐ終わらせていいのか……と残りページを見て嘆いて、本を閉じたくらいだ。
 自分が女子プロレスを会場まで見に行っていたのは2017〜2019年頃が主で、その頃日本で活躍していた一部の選手は渡米しWWEに行ったり、国内団体に所属していてもユニットや方向性が変わったりと、最新の情報は正直ほとんど追えていない。つまり、女子プロレスというジャンルに疎くなっている私でも、登場する女子プロレスラー幾人かの情報をあまり知らなくても、充分に魅せられる作品だったのである。
 本書は著者と担当編集者の女性同士での「往復書簡」が前半に収録されている。穏やかな回もあれば、文章で攻撃し合い、受け身をとるような回もある。それが各インタビューへとつながっていき、次のインタビューへ……と展開していくのだが、女子プロレスラーだけでなく、往復書簡をやりとりするふたりの女性たちももれなく戦っている。
 そう、すべての女性たちは「それぞれのリング」に上がり戦っているのだ。対戦相手は人によってさまざまで、社会と戦う人もいれば、身近な人間と戦う人もいる。戦う相手は人ではなく、モノやコトというケースもあるだろう。ただ、誰もが皆、日々戦っているのは確か。では、実は私も何かと戦っているということなのだろうか。
 ジュリア選手(スターダム所属)がこう語っていた。

「続けるのが一番大変。あきらめない人がわたしは一番強いと思います」

『女の答えはリングにある 女子プロレスラー10人に話を聞きに行って考えた「強さ」のこと』(尾崎ムギ子、イースト・プレス)167ページより引用

 あらゆることを続けられずに宙ぶらりんで生きてきた私に最も刺さる発言だった。続けること——もっというと軌道修正しながら賢く続けること。それができたときに、自分が欲しい強さを手にできるのだろうと思う。ただ、目指す強さなんてそう簡単に得られるものではなく、長い人生を通して徐々に獲得していくものなのだろう。そう甘い話はない。
 殴られて、蹴られて、それでも立ち上がる、たくましくてかっこいい女子プロレスラー。アイスリボン道場の特別リングサイドというか、リングがすぐ目の前にあるシチュエーションで目にした彼女たちの圧倒的美しさは忘れない。前出のスターダムやプロレスリング WAVE、東京女子プロレスだってそうだ。会場にいたとき、私は自分にはできない世界を見せてくれる、同性のきれいで強い彼女たちに魅せられていた。
 自らの心身を通して女子プロレスラーは強さを伝えてくれる。いろいろな伝え方で、それぞれの強さがあると教えてくれる。福岡に女子プロレス団体が来たときは見に行かなくては。私なりの答えを探しに行きたい。


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