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ラム酒は大英帝国のシンボルだ

西部戦線塹壕の朝は、まだ薄暗い午前4時半頃に始まった。

兵士たちには紅茶とパン、それに少しのベーコンが与えられた。平和なときは、塹壕の外で朝食を執ることもできた。さらに運が良ければ、司令官が濃くて強いラム酒を配給した。S.R.D.(特別食糧部)と書かれた陶器の瓶から、一人当たりティースプーン2杯ほどのラム酒が鉄のスプーンで与えられた。それはまるで厳かな宗教儀式のようだった。ただちに熱い紅茶に入れる者もいたが、ほとんどはそのまま時間をかけて舌に染み込ませた。

サトウキビの絞り汁(糖蜜)を発酵させ蒸留して作られるラム酒は、イギリス軍の兵士たちを統制するのに不可欠のアルコールだった。ある軍医は、ラム酒の配給が 1 日でも遅れると兵士の間で不満が出始め、さらに遅れると不満が反乱にまで発展し、脱走が危惧されるとまで警告している。

ラム酒が兵士に支給されたのは、何よりもラム酒が兵士の戦闘能力を高めると信じられていたからである。

ラム酒が熱帯に由来するにもかかわらず、〈ラム酒〉という言葉は七つの海で大英帝国を築いた鉄の船乗りたちの英雄的な熱い記憶を呼び起こしたのだった。そのため戦闘の直前には、兵士たちはラム酒をいつもより多めに飲まされた。

ラム酒で兵士を奮い立たせるというイギリス軍の実践は、勇敢に、しかし時には無鉄砲に戦う兵士たちの伝説を生んだ。

こうして、イギリス軍兵士が戦う前線には、つねにラム酒と血の臭いが漂っていた。(了)

参考
・PETER ANDREAS:KILLER HIGHーA HISTORY OF WAR IN SIX DRUG(2020)
・Christopher White: THE WAR ON DRUGS IN THE AMERICAS(2020)
・Lukasz Kamienski:Shooting UpーA History of Drugs in Warfare(2012)
・Dessa K.Bergen-Cico:War and Drugs(2012)

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