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きれいな尿はいくらでも手に入った

1971年、ニクソンが大統領であったとき、彼の机に腰を抜かすようなとんでもない「報告書」が置かれた。

ベトナムに派遣された兵士のうちで3万数千人がヘロインの依存症になっているというのである。これは戦っている兵士の30%に近い数字である。

報告書に目を通したニクソンは、アメリカの麻薬問題の主要な部分というわけではないが、その中でとくに心を痛めるのはベトナムで麻薬を使用した兵士たちであると述べ、国防長官に対して、「能力を失った兵士を戦場から離脱させ、軍の即応性を維持すべきだ」と指示した。しかし、その真の目的は、退役軍人がベトナムで経験した酩酊感を国内でも求めることを予防することだった。ベトナムでは1日5ドルで維持できる習慣に、アメリカではその20倍の金が必要だった。ニクソンは、彼らがヘロインを入手するために犯罪を犯すリスクが高まっていると訴えた。

メディアは大騒ぎになり、国民の間にモラルパニックが起きた。ヘロイン中毒になった退役軍人が彼らの家に戻り、秩序ある市民社会を危険にさらすのではないかという恐怖が生まれた。

  • トム・クルーズ主演の『7月4日に生まれて』はとてもいい映画だった。愛国心に燃えた主人公がベトナムで戦い、負傷して、半身不随になって帰国する。映画の中では、心身に障害を負った兵士だけではなく、ベトナムで戦った兵士の多くが帰国してから体験する本当の地獄が描かれている。この映画が伝えたかったことは、ベトナム帰還兵の経験や今の状態を理解しようとしない社会で、彼らが普通の生活に戻ることができない惨めさだった。

こうして、国内の取り締まりや治療プログラムとは別に、ベトナムから帰国するすべての軍人のスクリーニングと、必要に応じてその解毒、適切な薬物と心理的治療プログラムが策定された。いわば「防疫線」である。

尿検査で陽性になると、5日ないし7日の解毒治療が義務とされ、さらに陽性になると不名誉除隊の手続きが取られた。帰国遅延、不名誉除隊、軍法会議の制裁をバックにこのシステムが強制的に実施された。

しかし、このシステムは上手く機能しなかった。それは、薬物依存の治療を目的に掲げてはいるものの、中心は中毒者の選別のためのシステムだったからだ。検査日は決まっていたので、兵士たちはその5日前から酒浸りになったし、何よりも兵舎では「汚れていない、きれいな尿」がいくらでも闇で買えたからである。

この尿検査は、兵士たちから「Operation Golden Flow」(黄金水作戦)と呼ばれたが、もう少しエレガントに「レモネード・パーティ」(Lemonade Party)と呼ばれることもあった。(了)


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