見出し画像

心の自由は生きる希望 -柚木沙弥郎と土方久功

柚木沙弥郎、ちょうど100歳だからということもあるかもしれないが、私が知っている範囲でも都内や近郊だけで今年既に展覧会4つ。
何度も行っているのに、やっぱり柚木沙弥郎展と言われると見に行きたくなるのは好きだから。
今月もたて続けに二つ。
(展示物の写真はポスター、フライヤー、リーフレットより)

一つ目は、

民藝の展示をよく開催している日本橋高島屋でのこの展覧会、会場はデパートの中なのでそんなに広くはない。
「仲間たち」とは、陶芸家の武内晴二郎、舟木研兒、工芸家の鈴木繁男、そして染色家グループ「萌木会」のメンバー達。師である芹沢銈介も。彼らの作品も同時に展示されて見応えがあった。
特に日本民藝館所蔵の陶芸や工芸は、解説が丁寧で満足。
日本民藝館は敢えて解説をしないスタイルで、それも作品と向き合うにはいいのだが、作品や作者のこと知りたくなる気持ちは正直あるので。

スリップウエアの鉢
お腹ぷっくりがかわいい

飾ってある柚木沙弥郎のテキスタイル、だいたい見たことある物ばかりだったけれど、それを使って親族が仕立てた服数着が展示されていたのがとてもよかった。
大胆な柄を生かしたシンプルなワンピースやセットアップ。
柚木沙弥郎のお姑さん(だったかな?)が、テキスタイルを使って新しく縫った服が嬉しすぎて、出来上がるとすぐにしつけ糸をつけたまま出かけたエピソードが微笑ましい。
これこそ用の美だなあ。
マリメッコみたいに、もっと身近に柚木沙弥郎の布が手に入るといいのにな。マリメッコの生地もそれなりに高いけど、お店はあちこちにある。
柚木沙弥郎のも民芸店とかにあるにはあるけれど、服に使えるような感じではなく芸術品の扱い。
工業製品ではないので仕方がないか。

柚木家の食卓の再現コーナーも素敵だった。
写真でよく見ていたエキパレスチェア、ラッシ編みの椅子、ウェグナーのコーヒーテーブル、沖縄や友人たち作の食器。
使って気持ちよく、見て楽しい生活の道具に囲まれるって幸せだよなあ。

家の柚木沙弥郎クッションカバー
シルクスクリーンの「いぬ」
テーブルランナーにしている「コウノトリ」


展覧会二つ目は、

土方久功は柚木沙弥郎より二回り年上の彫刻家・画家。二人に接点はないけれど、主催した世田谷美術館はそれぞれの多彩で自由な、そして温かな作風に共通点を見出して一緒に展示しているとのこと。二人とも絵本も作っている。

土方久功、無礼にも昔、「絵のヘタなおじさん」と私は思っていた。

お母さんに結んでもらったリボンがキュート。
『ぶたぶたくんのおかいもの』土方久功さく/え
「こどものとも」
福音館書店 1970
『ゆかいなさんぽ』土方久功さく/え
「こどものとも」
福音館書店 1965
『山の上の火』クーランダー、レスロー文
渡辺茂男訳 土方久功絵
岩波書店 1963

描線がどうもへにゃへにゃ。子ども心にも、こりゃないだろと思うような力の抜け具合。

『愉快なさんぽ』より。
トラが…
『ぶたぶたくんのおかいもの』より
『山の上の火』より

土方久尚は29歳から当時日本の委任統治下にあったパラオ諸島で10年以上過ごし、帰国後も島の人々や自然をモチーフにした彫刻や絵画を多く制作した。彫刻は木彫りのレリーフやマスク、像などどれも素朴で力強く、愛がある。

上段真ん中の「島の伊達少年」は、
下段右端では絵画でも。
お気に入りモチーフだったのかな、
木彫レリーフにもなっていた。
羽根をつけたリーゼントがイカしている

作品群を見、ぶたぶたくんの原画の前で「絵のヘタなおじさん」と思っていた自分を恥じる。

ポスターにもなっているこの水彩画、

「美しき日」

構図、色彩、陰影、描線どれもとてもいいなあ。
こちらも先に木彫レリーフとして制作されている。

帰宅して改めて古い絵本を見返してみたら、ここにも南洋モチーフが描かれていた。

『ぶたぶたくんのおかいもの』より

ぱんやの優しいおじさん、一人でおつかいに来たぶたぶたくんをほめて、「いちばんじょうとうのかおつきぱん」をくれるのだが、かおつきパンは木彫りのマスクそっくりだし、おじさんがパラオの人みたい。
表紙のぶたぶたくんの買物カゴにも、かおつきぱんがのぞいている。

土方久功のコーナーの先には柚木沙弥郎作品の展示。
広い空間にテキスタイルがのびのびと掛けられていた。

柚木沙弥郎が蒐集し、アトリエに飾っている世界の民芸品やおもちゃ、きれいなリボン等の展示も。こういうの見るのがすごく楽しい。

村山亜土が文を書いた絵本『トコとグーグーとキキ』に登場する町の人々の人形。

その他、私的なクリスマスカードやお孫さんのクッキー屋hanaのパッケージ原画なども。
日本橋高島屋の展覧会とは違う切り口で、土方久功も楽しめたし、「また柚木沙弥郎」というわけではなかった。

「自分自身が美しいと思うもの、おもしろいと思うもの。それを見つけようとすることは、自分の心の中に自由を持つことにつながるんじゃないかな。
そしてその心の自由は、生きる希望につながるんじゃないかな」

柚木沙弥郎「身近な"美"をどう見つける?」『母の友』第813号(福音館書店 2021年2月号)より

メモした言葉を心に刻む。

さらに、2階の展示室ではこちらの企画展も

『世界』と『暮しの手帖』のカット展

こちらもよかったので、世田谷美術館は一粒で3度おいしかったのだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?