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散歩の途中で李禹煥、目的地は蔦谷喜一

 足の手術をする前は週末はひたすら走るばかりだったが、ランを控えるようになってからはかわりに長距離散歩をするようになった。
走っていては見えなかった風景がゆっくりのんびり見られるようになり、寄り道し放題。
涼しくなって、歩くには最高の季節到来。

金木犀も今季2ラウンド目

週末は夫と歩いて区を4つ越えて、もうすぐ閉館する小さな美術館へ。
目的地は荒川区町屋にある、ぬりえ美術館。
散歩のいいところは、使い古された言い方だけれど目的以外に予期せぬ出会いがあること。

本郷から谷中の方へ抜けようとしたら、あらっ、ひっそり李禹煥展。国立新美術館でも開催中だが、こちらはたまたま前を通って初めて知った。

SCAI THE BATHHOUSE
ギャラリーは元銭湯
「物質の肌合い」というタイトル通り、
様々な手触りが感じられる作品群。
ザーッと手のひらでなでてみたい
触ったら気持ちよさそうー!
タッチ厳禁だけれど。

もちろん国立新美術館よりは点数も少なくスケールは小さいけれど、こういう思いがけない李禹煥もいいな。

霊園抜けて、芋坂跨線橋から
実ったかりんの向こうにスカイツリー。
小鉄ちゃんたちが電車眺めていた。


日暮里駅の先から線路をさらに2つ越えて、目的地に到着。

ぬりえ美術館は蔦谷喜一の姪、金子マサさんが館長の小さな私設美術館。今月いっぱいで閉館。

和風も
洋風も

4頭身がキュート。
年を経るにつれ微妙に顔つきが変化していくけれど、基本は変わらない。

画面片隅の、幸福の象徴という小鳥付きのサインもかわいらしい。


蔦谷喜一は大正3年生まれ。昭和15年からフジヲの名前で塗り絵画家としてスタートし、22年からは「きいち」名で以降20年以上活躍。最盛期には月160万部も売れたそう。
その後塗り絵の衰退で一時は筆を置いたが、1970年代後半にブームが再燃。

「フジヲ」名の初期作品
大人っぽい


絹布の繊細な彩色作品も


ため息でるくらい素敵な色合い!



人間以外の塗り絵もあった。このスズメのコーヒーパーラー、行きたい!

みんなびっくりしてこっち見てる…


「あたしのあるばいと」は、納豆売り!
手ぬぐいほっかむりだけどモダン


アンニュイな横顔
「ひとりぽち」って言葉も寂しげ。



喜一以外の塗り絵も展示。「くるくるクルミちゃん」の松本かつじ、この人の絵もいいなあ。

喜一の女の子より足が太い
KatsujiじゃなくCatsuji。おしゃれ

紙製着せ替えも。

1954年優勝の児島明子さん
「君の名は」の岸恵子着せ替え

 塗り絵は美術教育の観点からは低く見られていたそうだけれど、子どもの頃の幸せな時間の一つ。どんな色にしようかなと迷うのも楽しかった。
娯楽が今より少なかった時代、紙の着せ替えや塗り絵で、子どもたちは憧れやワクワクをたくさん感じていた。

スペースの関係からか、展示しきれない資料は細長い引き出しの中に収められており、一つ一つ開けて見るスタイル。これも楽しい。


世界各国の塗り絵ブックも展示されていた。
色鉛筆やクレヨンが手に入る、平和な国の子どもの楽しみなのか…。

お土産に買った塗り絵、「およめさん」編や「ファッション」編などいくつかある中で、美術館の方のおすすめに従い「昭和のくらし」編を選んだ。

蚊帳吊りも障子貼りも火鉢で暖を取るのも全部経験しているけれど、今では全て遠い日々。

お姫様がごきげんよう、さようなら、と。

ありがとう、喜一さん。

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