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犬も役者 - カウリスマキ映画 『枯れ葉』

引退したはずだったアキ・カウリスマキが復活するという話をmakilinさんの「アキ・カウリスマキいっき観」という記事で知った。makilinさん、ありがとうございます!

復帰後最新作の『枯れ葉』を観に行った。


カウリスマキはやっぱりカウリスマキだった。
すごくよかったー!
安定のいつもの人たち。いや、以前の作品とは設定も登場人物も違うんだけど、あの世界にまた浸れて幸せ。
『希望のかなた』に出てた2人もいたし。

スーパーで働くアンサ、叔母(だったかな?)から継いだ小さな家に一人つつましく暮らしている。ある日同僚と行ったカラオケバー(相変わらずへんてこな店。バーテンダーがいい)で、コンテナ暮らしの工事労働者ホラッパと出会い、お互い何となく惹かれ合う。(が、カウリスマキなのでそう簡単に恋は進まない)
アンサはスーパーを解雇され、ホラッパもアル中なので同じく解雇。
それでも何とか2人、うまくいくか?と思ったところでまた不幸に見舞われる。

と、ざっくりあらすじ書いてみたが、これだけだと何の華やぎも無い暗〜い物語。
カウリスマキの「労働者三部作」の系譜だそうだけど、「敗者三部作」にも連なるような…。
確かに華やぎはないけれど、色彩や人物の表情や動きや台詞、音楽などカウリスマキの計算された画面は決して暗くはなく、時に笑いも誘う。

生活が困窮するくらい社会の底辺にいても、不思議な品の良さや美しさが滲み出ていて、ちょっと羨ましくさえある。
そして素晴らしいエンディング!
ネタバレですが、最高に幸せな終わり方。
カウリスマキ映画は、見終わって生きていることに感謝するのだけれど、今回もそうだった。
全編でほとんど無表情のアンサの笑顔が最後に控えめだけれど一瞬輝く。シャンソンの『枯れ葉』はもの悲しげに流れ、晩秋のヘルシンキは暗いのだが、明るいその先を感じさせる。

アンサ役は、ムーミンの作者トーベ・ヤンソンの
若き日々を描いた『トーベ』で主役を演じていたアルマ・ポウスティ。
トーベ役の時とは別人の全く違う演技で、完全にカウリスマキの世界の人になっていた。
ホラッパ役のユッシ・バタネンも、脇役も皆よかったけれど、犬も泣けてくるくらいいい演技。

アンサにもらわれたこの子。名前もいい


カウリスマキ映画にしばしば登場する犬たちも、みんなどこか共通点がある。
雑種っぽくて名犬っぽくなくて不安げで、でもいつもそっとそばに寄り添っていてくれる大切な存在。
『過去のない男』『街のあかり』『ル・アーヴルの靴みがき』に出ていたどの犬だったかは、パルム・ドッグ賞も受賞したのですよね?

カウリスマキ監督は相当犬好きらしい

12/15付け朝日夕刊のポウスティのインタビュー記事でも、この映画作製前にカウリスマキと会って食事した時、会話のほとんどは映画より政治と森と犬の話題だったと語っていた。
(森ってところがフィンランドだな〜)

映像見てると風物がレトロなので70年代っぽいが、ラジオではいつもロシアのウクライナ侵攻のニュースが流れている。
フィンランドも歴史的にロシアの脅威にさらされてきた国。カウリスマキも、今現在起きているこのことを作品に盛り込めずにはいられなかったのだろう。

映画の冒頭、暗鬱なロシア攻撃のニュースに堪りかねて別の周波数に変えるアンサ。(そのラジオもいつの時代の?って感じのクラシックな物)
流れてきたのは「竹田の子守唄」。
カウリスマキ映画では、クレイジーケンバンドや「雪の降る街を」などの日本の歌も使われていたことがあったけど、まさかの「竹田の子守唄」…。
でもこれが、アンサの質素な部屋に静かに流れてくると違和感がないのだった。
劇中の他の音楽ラインナップも時代が混乱するのだが、一つだけ今っぽいのは若い姉妹デュオ、マウステテュトットの生演奏。やる気なさそうに歌ってるのがよかったなー。本国では人気らしい。舌を噛みそうなバンド名はフィンランド語で「スパイス・ガールズ」だそうだけど、全然あんな感じではない。

個人的にすごくうれしかったのは、ホラッパがアンサを待ち続ける映画館の壁に貼られた、『若者のすべて』など様々な昔のポスターの中にあったジャン=ポール・ベルモンド。
ゴダールの『気狂いピエロ』も赤と青の配色だから?

前述のポウスティのインタビューによると、監督は師と仰ぐ小津安二郎同様赤にこだわりがあるが、小津作品の赤いやかんは、カウリスマキ式では消火器になったそう。とにかく赤が効いていた。
小津だけでなく、チャップリンやロベール・ブレッソンへのオマージュも。『田舎司祭の日記』をそこで出す⁉︎のがおかしかった。

みんな無表情で台詞棒読みなのに、なんでこんなに心揺さぶられるのだろう?
なんてことない瓶詰めアスパラガスとゆで卵の前菜なのに、ちょっと作ってみるかなと思ってしまったのはなぜだろう?

この映画の公開記念として、来年1/12までユーロスペースで過去のカウリスマキ作品が毎日上映中。


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