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さよなら、サンペ

 ジャン=ジャック・サンペが8/11に亡くなっていた。89歳。母と同い年とは知らなかった。

フランスの国民的漫画家、イラストレーター。長谷川町子みたいな感じ?50年近く前に
文春文庫版の『わんぱくニコラ』でその軽妙洒脱な絵に魅了されて以来、ずっとファン。

Editions Denoël 1960

 盟友ルネ・ゴシニの文章にサンペが挿絵をつけた、小学生ニコラの日常を綴ったシリーズはその後『プチ・ニコラ』とタイトルを変えて偕成社から何冊も出て、現在は世界文化社から。実写版で映画化もされた。

2010年
原作よりもニコラはお行儀よかった
偕成社 2006


シリーズを通して小学生のニコラも級友たちも、みんなやたらと殴り合いをしては鼻血を出す。

あっちでも
こっちでも
転校生も初日から

 日本の児童書にはここまでボカスカやるケンカはあまり出てこないのでは?タバコを好奇心から吸って気持ち悪くなっちゃうとか、夏休み明けの学校には日焼けして行かなくちゃかっこ悪いとか、フランスだなぁ。

 ニコラの親友はいつもパンオショコラやタルティーヌやクロワッサンをもぐもぐしている。食べている物がまたフランスならでは。昔はクロワッサンぐらいしか知らなくて、どんなパンだろう?と思っていた。

食いしん坊のアルセスト

 鎌倉にアルセストという名前のお菓子とパンのお店があった。看板にもこのキャラクターがあしらわれていたが、正規に許可を得て使っていたそう。店主がすごく陽気でおしゃべりだった。

 ところで、千代田区立泰明小学校。銀座のど真ん中だが蔦の絡まる校舎やモールディングやアーチ型のデザインがクラシックで、ここの前を通るとニコラたちが休み時間に一斉に狭い校庭に出てくる場面を思い出す。

ビルの谷間で校庭狭いけれどかわいい学校
校舎からワーっと。


子どもの本だけでなく大人も楽しめる、しっとりとした物語の挿絵も。

文藝春秋 1992

 この本、ドイツではベストセラーだったそう。著者ジュースキントはドイツ人で物語もドイツの村が舞台だが、訳者池内紀は後書きで挿絵を担当したサンペのことを「フランスでは、首相の名前は知らなくても、このサンペなら誰もが知っている」と紹介している。

『とんだタビュラン』は文章もサンペ。

太平社 1997 荻野アンナ 訳

実は自転車に乗れない自転車屋、ラウル・タビュランのお話。こちらも『今さら言えない小さな秘密』というタイトルで映画化された。サンペは自転車が好きなのだなあ。

ツール・ド・フランスで区間賞取った選手は地元のスター。

2019年
原作の味を損なわない、いい映画だった

しゃらしゃらっとした軽いタッチだからか、画面にみっしり描きこんでいても全然重さを感じない。群像描写も、一人ひとりに個性がある。

でも、大きな画面にぽつんと佇む人や群衆の中に一人ぼっちでいる人もまたいいのだ。

Editions Denoël
Galerie Bartsch & Chariau 1990

バカンスなんて言葉は日本では小っ恥ずかしくて使えないけれど、この画集は夏休みに時々眺めたくなる。

入江で
誰もいない渚で
海辺のホテルのロビーで
ミツバチが飛ぶ田舎家の庭で
浜辺のバーのテラスで
遺跡で
朝日が差す誰もいない通りで

 なんてことない日常の中にも、すてきな一瞬があるということを気づかせてくれた人。
サンペさん、どうもありがとう。


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