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あわてんぼうでさびしがりのあの犬の晩年は、喫茶店のマスター
父が『少年倶楽部』ののらくろが好きで、家の本棚には講談社版の漫画があった。
私にとって白黒の動物キャラクターといえばミッキーマウスやスヌーピーより先にのらくろ。
旧仮名遣いが読みにくくて、意味がわからない会話もたくさんあったが「営倉」や「酒保」という言葉は『のらくろ』で知った。
主人公のらくろ以外で好きだったのは、穏やかでおっとりとしたモール大尉。
1970年にTVアニメが始まり楽しみに見ていたけれど、絵柄が原作と違うし原作にはいない従軍看護師のミコちゃんという犬がガールフレンドというのはちょっと違うんじゃないかと、子ども心に疑問だった。
のらくろのテーマソング、『少年倶楽部』掲載時は軍歌『勇敢なる水兵』のメロディに「末は大将 元帥か」と、いかにもの歌詞がついたもの。
かたやアニメ版はやなせたかし作詞の『しっぽはぐぐんと』という陽気な歌。
進軍ラッパで始まるけれど、歌詞の内容はのんきで平和。のらくろ役の大山のぶ代が「あわてんぼうで〜さびしがり〜♪」と長閑に歌っていて大好きだった。
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光人社刊 1983
時々孤独を感じて涙する姿が切ない
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第五中隊長モール大尉
ピンクのジャケットは後に妻となるお銀ちゃん
『のらくろ自叙伝』より
田河水泡自身の子ども時代を投影させたと言われる孤独な捨て犬。箱の蓋に乗せられ川を漂っていた、やせっぽちの野良犬黒吉。
昔は脚先だけ白い黒犬は「四つ白」と言われて縁起が悪いとされ、真っ先に捨てられていたそう。今はそういう犬猫はソックスとかミトンとか名前がつけられてかわいがられるのに…。のらくろのフカフカした大きな白い手足、猛犬聯隊の軍旗モチーフにもなっていてかわいいけどなあ。
田河水泡は、当時日本にたくさんいた貧しく虐げられていた子どもたちが共感できるキャラクターとして、社会の底辺のドジでみすぼらしい、でも愛嬌たっぷりののら犬を主人公として世に送り出した。
みなしごののらくろ、いつもお腹を空かせていて、食いっぱぐれがないという理由で猛犬聯隊に志願入営。
最後は大尉で依願免官するまでののんびりした軍隊生活を舞台にした漫画は、戦中は軍を馬鹿にしていると当局から睨まれ、物資不足の用紙統制を理由に執筆禁止となった一方、敗戦後は軍国主義に与したとして批判も受けたという。
今の価値観でも、軍や戦争を舞台にしたキャラクターは子ども向けとしては最早受け入れられないのかもしれない。
田河水泡も妻もクリスチャン。マンガの中でブル連隊長は「戦争というのは悲しいものだ」と繰り返し語る。
絵の弟子の長谷川町子の『サザエさんうちあけ話』では師田河水泡の優しい人柄が描かれており、町子の姉が主人公の連ドラ『マー姉ちゃん』でも、愛川欽也演じる田河水泡は笑顔を絶やさない朗らかな愛妻家だった。
江東区森下文化センター1階には、「田河水泡・のらくろ館」というコーナーがある。
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センター並びには「のらくろード」という商店街。森下は田河水泡ゆかりの地。
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田河水泡の本名は高見澤仲太郎。それがなぜ田河水泡になったのかという由来や、若き日に前衛芸術集団マヴォに所属していた頃のモダンなヘアスタイル、小林秀雄の妹・富士子(潤子)と結婚式を挙げた時のかわいい写真など、のらくろだけでなく興味深い資料がたくさん。
園芸好きの田河がダリアや水仙の球根をのらくろの絵付きで「ご自由におもち下さい」と札を立てて自宅前に置いていたら、札も持って行かれたというエピソード(妻の高見沢潤子による『のらくろひとりぼっち』光人社)が楽しい。そりゃ球根よりのらくろの絵が欲しいでしょう。
他にも、のらくろに影響を受けた豪華漫画家達とのコラボレーション資料も展示されている。
手塚治虫ののらくろパロディ漫画とか、仮面ライダーやオバQ、ニャロメがのらくろ化していたりゴルゴ13や『小さな恋のものがたり』のチッチがのらくろと並んでいる色紙とか。
今回再訪したのは、この企画展があったので。
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森下文化センター、太っ腹!
もう物は増やすまいと思っているのに、ちっちゃいぬいぐるみだから〜と自分に言い訳。
展示ロビーには色々なシチュエーションで撮られた楽しい投稿写真。
ミニチュアの撮影スポットも。
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のらくろードの酒屋さんで買ったお土産で遊んでみた。
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のらくろ、軍を離れてからは大陸に渡って地下資源開発に携わり、帰国後は喫茶店のマスターとして、お銀ちゃんと穏やかな晩年を過ごしたとか。
よかった。
タイトル写真は、センターで売っているのらくろ絵葉書。田河水泡の水彩画『のらくろのいる風景 奥多摩』1988
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