散文集#21 最後の手記
誰かがそう言ったのだったか、僕がそう名付けて読んでいたのだったか、そんなことを忘れてしまうくらい昔の話だ。
何時かの僕が欲しかったものは何だったのか、何処かに置いてきてしまった願いはどんなものだったか。誰かに会いたかった気もするのに、何をしたかったのかが思い出せない。
僕はなにも忘れていないのに、すべてに対する感情をなくしてしまっていた。確かにそれまでの記憶があるのに、そこにあったはずの感情が抜け落ちてしまっていた。
ただ、体が生きようとしているらしいから息をしている。腹が減ったからご飯を食べている。味は感じるのに、その味に対する感想が浮かばない。死にたいわけではないけど、積極的に生きたいわけでもない。
休息する時期だと言い聞かせてはいるが、結局のところ劣等感と虚無感が膨れ上がるだけ。何もしていない時間が必要だと口に出してみるが、周りはどんどん進んでいく。それを見るのが耐えられない。
反省という名の自分を責める時間だけが、暇つぶしになっていく。
こうやっていつまで無為に時間を浪費し続けるのか。見ていた夢も思い出せない。なのに、かつての情熱を求めている。
何もできないと思っているのに、いつかは何かできるのではと期待している。
今やる気が起きないのに、その先に何か成し遂げられる気がしている。
でも、諦めが最後に残る。
結局のところ、すべてを諦めている。
もういいんだ。
助けてもらいたいわけじゃない。
聞いてほしいんじゃない。
疲れたんだ。
どうでもいいんだよ。
ー--ある芸術家の最後の手記
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