ドットの基礎とアバター制作・改変のヒント
この記事は、前記事「pictSQUAREアバター素体9種配布」の公開にあたり、ドットアバターの制作や改変にあまり慣れていない方向けに、アバター製作に限らないドット絵の制作や配布素体の改変に役立つかもしれない基礎知識と作例をまとめたものとなります。
配布した素体の概要やサンプル、ダウンロードは前記事をご覧ください。
ピクスクアバターの基本情報
pictSQUAREのアバターは、32×32pxのアバターの移動動作3コマ×前後左右の4方向を1枚にまとめた96×128pxの.png画像です(上図ではわかりやすいよう2倍に拡大しています)。
それぞれ横の並びが移動時のアニメーション(移動モーション)、縦の並びが移動方向に対応しています。
【ツール】 ドット絵の制作・改変でよく使うソフトの機能
以下、一般的なPC用お絵描きソフトでドット絵を描く際の留意点です。
例に挙げていないソフトでも概ね似たような機能が搭載されていると思いますので、設定の参考にしてください。
・ 塗りつぶしツールの設定
現在スタンダードなPC用お絵描きソフト(CLIP STUDIO PAINTおよびPhotoshop)の塗りつぶしツールには、
の設定項目があります。
ドットの作業では、意図せぬボケや色数の増加を防ぐため「アンチエイリアス」および「隣接」はオフにし、それでも意図せぬ色数増加に気がついたときには「色の誤差」の数値を少し上げてから塗りつぶしを使うことで近い色を統一してしまうことができます。
CLIP STUDIO PAINTの場合は「領域拡縮」もオフにしておきましょう。
・ 選択範囲ツールの活用
塗りつぶしツールと同様、「アンチエイリアス」はオフにします。
・ 意図しない不透明度の変更を防ぐ
多くのPC用お絵描きソフトには、不透明度変更のショートカットキーがあります。私は「不透明度100%で作業していたつもりがいつの間にか90%になっていて、意図せず色数が増えていたり半透明部分ができている」というのをよくやります。これをやると大変つらいので、やらかしそうな心当たりがある場合はあらかじめ対策を行いましょう。
・ アニメーション機能
移動モーションの作成に際しては、規格に沿っている画像であればピクスクのテスト会場でいつでも動作確認が可能ですが、CLIP STUDIO PAINTやPhotoshop、EDGE(後述)の場合ソフト自体にもアニメーション作成機能があります。必要に応じてソフト側のアニメーション機能の使い方も調べて活用し、意図通りの動きになっているか随時確認しましょう。
【ツール】 高機能ドット絵エディタ「EDGE」のススメ
何事も慣れた道具で始めるのが一番ではあるものの、WindowsPCをお使いでドット絵に興味のある方は是非フリーのドット絵エディタ「EDGE」の導入もご検討ください。ドット絵の制作に特化しているため、前段で挙げたような設定変更の必要や悩みは皆無です。
今回は32px四方の小さなドットですが、ある程度大きなドット絵を描く際に欠かせなくなる直線ツールの挙動の軽快さに加え、パレット管理機能、パターンパレット、塗りつぶしツールでのドット枠生成などなど、個人的には世界でいちばん楽しく快適にドット絵を描けるソフトだと思っています。
【基礎】 色数は管理し切れる範囲内で増やす
「ドット絵」というと少ない色数でやりくりするイメージを持たれているかもしれませんが、.pngの普及等により現在は使用色に制限がかかることはほぼありません。かといって、普通は32px四方のドット絵に256色使い切ることもありません。
単純に色をたくさん使えばリッチな仕上がりになるかと言えば、そういうものでもありません。使う色と使い方による上、特に今回のようなアニメーション用ドットでは後から非常に面倒な思いをする羽目になりかねません。
少なくとも改変作業自体に慣れるまでは、まず明暗や色味の違いがきちんと見分けられる程度の色で塗り分け、その後必要に応じて間を埋める色の追加を検討することをおすすめします。
【基礎】 ドットの整列とアンチエイリアス
・ アンチエイリアスとは何か
限られたピクセルの中で表現されるデジタル画像において、何かの形を図と背景の2色のみで表そうとすると、時に形として意図していない部分にガタつき、ギザギザが見えてしまいます。このギザギザを「ジャギー」と呼びます(ジャギーのある画像や箇所を「ジャギが出ている」「ジャギってる」などと言います)。
そのジャギーを目立たなくする処理がアンチエイリアシング(=アンチエイリアス)です。昨今は画面解像度の向上により意識する機会も減りましたが、普段私たちがPCやスマホの画面で目にする文字がなめらかなのも、アンチエイリアスがかかっていることによるものです。
この見た目上のなめらかさは、図の色と背景色の境目をその中間色(または図の色の半透明色)で補完することによって得られるもので、ドット絵では必要に応じてこれを人力で打つことになります。
・ アンチエイリアスを打つ前に:ドットの整列の重要性
ピクセルは正方形であるため、水平・垂直・斜め45度にまっすぐ並んでいる限りはガタつき=ジャギーが発生することはありません。
ではどんなときにジャギーが目に付くのかというと、「ドットが規則性から予測される場所にない/余計な場所にあるとき」「目的に対してピクセルが足りていないとき」です。ここでは前者に関して述べます。
ドットの配置の規則性を意識し、あらかじめ可能な限りドットがガタつかないように気を配っていれば、それだけでかなり整って見えます。これは、線画を用いず塗り分けをメインに構成する場合でも同様です。
フリーハンドでの描画は不慣れだと特にこのような修正が発生しやすいため、個人的には下書きと細部調整以外の作業では直線ツールまたは連続直線ツールの活用をおすすめします。その結果整った線が得られるかは使用するソフトによりますが、フリーハンドよりは概ねマシな結果が得られやすく、後のドット整理に充てる時間が短縮できます。
・ アンチエイリアスに必要な色数は?
アンチエイリアスは、どのような場所にかけるかによって複数の中間色を使わないとうまく馴染まないこともあれば、1色で済むこともあります。
アンチエイリアスをかけるにあたり通常最も多くの中間色が必要となるのは、「水平・垂直・斜め45度からわずかに傾いた直線」です。これが前段で挙げた「目的に対してピクセルが足りていないとき」です。
こうした場合、複数の中間色をグラデーションのように用いることで「縦2pxの中で急に曲がって見える箇所」をぼかし、「緩やかに傾いた直線」を疑似的に表現することになります。
・ 別に打たなくてもよい
作品の中でのアンチエイリアスの打ち方や色数は、目指すのが立体感のあるグラデーション仕上げか、アニメ風のフラットな仕上げかでも変わってきます。そもそもアンチエイリアスを打つようなドット数の余裕がない場合など、作品自体の大きさも関係します。今回の32px四方は、「なくても全然構わないし、作風によっては打とうと思えば結構打てる」というラインです。
今回配布した素体でも素体の輪郭と肌色とを軽く馴染ませるのに1色、それもほとんど色トレス的に立体感の補助に使ったのみで、アンチエイリアスと言えるほど細かい作業は行っていません。
【作例1】 左右反転を活用したアバターの作成
デザインが左右対称のキャラクターである場合、上図A・B・Cで示したそれぞれ同じ色の箇所は、どちらか片方を描けばもう一方はコピー+左右反転で埋めることができます。
また、左右非対称のキャラクターの場合でも、左右反転ベースからの加筆修正の方が、1から素体を改変するより時短が期待できます。
【作例2】 正中線のない素体に正中線を作る
配布した素体では、「マッチョ」「スマート」以外のキャラは正中線のないドット構成になっており、正中線上にドットを置くことはできません。
仮にこれらの素体を正中線のあるキャラデザインに対応させたい場合、中央に1px足すか引くかして正中線を作る必要があります。
また、同様の手順で「マッチョ」「スマート」から正中線を取り除くこともできます。
【作例3】 頭のサイズアップ
配布素体のキャラクターは全体に小さく、顔面もシンプルです。
しかし、顔をもっと大きくして描き込みたいという場合もあると思います。
そんなときには、頭身の低い素体を拡大してみましょう。
【作例4】 移動モーションのアレンジ
横列1→2→3→2を繰り返す移動モーションの特性上、通常は主に「手足の前後」に使用する左右1・3のコマを「上下」や「左右」、「伸び縮み」などに利用することで、単純な歩行以外の移動モーションを作成することができます。
1および3のコマの作成にあたっては、常に「2からどのように動かすか」と「1と3を揃えるか否か」を意識しましょう。
例えば通常の歩行モーションでは、頭の位置を1と3で揃えることで4コマの動きの中に2コマの繰り返しのリズムを作り、歩行と連動した頭の上下動を表現しています。この作例の左下から2番目でも同様です。
しかし揺れたり跳ねたり浮遊したりといったモーションが欲しい場合、1と3は2を挟んだ逆方向に動かす方が比較的ゆっくり・大きく見える動きを表現することができます。
【作例5】 半透明の活用
「ピクスクアバター画像の基本情報」で述べたように、ピクスクアバターの.pngでは半透明を扱うことができます。
配布素体では足元の影に半透明を使用していますが、例えばこのように半透明のお化けアバターを作成してみることも可能です。前段の内容と併せ、スライムやクラゲなど作ってみても楽しいかもしれません。
作例のダウンロード (.png)
作例1:改変アバター(中華娘)完成画像
作例2および3:ビッグマザーおよびビキニマッチョ正面画像
作例4:左列(人型正面)まとめ、右列(その他正面)まとめ画像
作例5:お化け正面の不透明および半透明バージョンまとめ画像*
*上から不透明・半透明・不透明・半透明
おわりに : 妥協を友とせよ、楽しい範囲で打て
ドット絵はたかが1px、されど1px の連続です。こねくり回している限り永遠に完成しないし、ようやくひと段落ついたと保存やアップロードをした瞬間、単純なミスや「ここはこうしとけばよかった」に気がつきます。
サイズが限られているからこそかえって「ここをこう直せば」が明確で、かつ一度の作業量自体は少ないがために、修正無限ループに入ると抜け出せなくなります。アップロードしてしまったら一旦諦めましょう。打っているときにもう十分頑張ったはずです。
今回の配布素材や作例にもまず確実にどこかにミスがあると思いますが、探さないでください。私も見ないフリをします。
短辺でも1000pxを超えるデジタルイラストが当たり前となった昨今、小さなキャンバスのドット絵は「デジ絵を描き慣れていない人にとっては気軽に始められる」「デジ絵を描き慣れた人にとっては遥かに奥深くもなる」楽しい趣味だと思っています。
私もそうした趣味人のひとりに過ぎませんが、今回こうして公開した素体や記事が、どなたかがドットを楽しむきっかけのひとつとなれば嬉しく思います。
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