結成52年!謎に包まれた兄弟ユニット「SPARKS」に迫る
J-WAVEで放送中の番組『SONAR MUSIC』(ナビゲーター:あっこゴリラ)。番組では、毎回ゲストを迎え、様々なテーマを掘り下げていく。
4月5日(火)のオンエアでは、結成52年の兄弟ユニット「SPARKS」を特集。ゲストには、数多くのライナーノーツや著書を持つ音楽ライターの山崎智之さんが登場。
■チェンジし続ける音楽性
4月8日(金)、謎に包まれた彼らに迫る音楽ドキュメンタリー映画『スパークス・ブラザーズ』が公開。イギリスの人気映画監督エドガー・ライトが手がけた初のドキュメンタリーということも相まって、公開前から音楽好きの間で話題となっている。ドキュメンタリー映画の公開を機に、謎が多いSPARKSの魅力に触れていきたい。
あっこゴリラ:活動50年を超えるSPARKSですが、山崎さんはどんなバンドと捉えていますか?
山崎:25枚もアルバムを出しているベテランなのに、出すアルバム全部新鮮で、ビジュアル的にも全く歳を取っている感じがしません。いろんなスタイル音楽をやっているのでびっくりする人も多いと思うんですけど、でも逆に音楽ファンだったら必ずハマるアルバムがあるとも言えます。一枚気に入るアルバムが見つかれば、全部気に入るようになると思います!
あっこゴリラ:おお~! 毎作品スタイルが違うってすごいですね。
山崎:そうですね。彼らに影響を受けたバンドも、クイーンやペット・ショップ・ボーイズ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズなど、とにかくあなたが好きなバンドはSPARKSが好きなんじゃないかと言えます。
アメリカ・ロサンゼルスで生まれた、兄のロン・メイルと弟のラッセル・メイルによる音楽ユニット「SPARKS」。ともに映画やアートを大学で学ぶ中、イギリス音楽に傾倒。1967年に前身バンドとなる「ハーフ・ネルソン」を結成。人気ミュージシャン、トッド・ラングレンの目に留まりデビューする。
しかし、なかなか売れることがなく1970年、現在の「SPARKS」に改名。活動を続けるなかで、生まれ育ったアメリカではなくイギリスでヒット。元々イギリスの方が性に合うと感じていた彼らは1973年、イギリスへ移住。独特のルックスと、キャッチーな楽曲で人気を博し、『This Town』は全英2位を記録するなど次々とヒットを飛ばす。しかし数年後、飽きられたと感じ、再びアメリカへ。
その後も、変わっていく音楽業界やテクノロジーの進化に対応しながら上がっては下がり、下がっては上がり、とにかく音楽を作り続けたSPARKS。根強いファンを持っていた彼らだが、その中には、レッチリのフリー、ベック、ビョークなどそうそうたるメンツが。時の流れとともにSPARKSに影響を受けた若者たちがスターになっていく。2015年には、これまた彼らのファンだったフランツ・フェルディナンドとタッグを組み、スーパーバンド「FFS」を結成。世界をツアーで回るなど大きな話題となる。
兄・ロンは73歳、弟・ラッセルは69歳となった今年、ドキュメンタリー映画『スパークス・ブラザーズ』、さらに原案/音楽を手がけた映画『アネット』も公開という、未だ現役バリバリの兄弟ユニットである。
ここからは、キーワードと共にSPARKSを深掘りしていく。
一つ目のキーワードは、「チェンジし続ける音楽性」。
あっこゴリラ:山崎さん、これは具体的にどういうことなのでしょうか?
山崎:約50年の間に、ポップス、パンク、シンセ(ディスコ)、ネオクラシック、フランツ・フェルディナンドとのコラボ、今回『アネット』ではミュージカルなど、どんどん音楽性が変わっていきます。しかし、兄・ロンの書く曲と弟・ラッセルのちょっと個性のあるファルセットっぽいボーカルが、いろんな音楽性を貫く個性となっている。それがSPARKSです。
あっこゴリラ:なるほど。50年間いろんな音楽をやってきたのは、時代に対応していったって感じなんですかね。
山崎:そうですね。何もないところからクリエイトするよりも、時代のエッセンスを取り入れながら、それをSPARKS流に崩していくのが彼らの流儀なのかなと思います。
あっこゴリラ:それって、その時その時でちゃんと評価はされてるんですか?
山崎:売れなかったものも一部ありますが、基本的にどの作品も高く評価されています。ただ初期はイギリスで評価されて、それからドイツ、フランス、日本など、アルバムごとに評価されている地域が違うんですよね。
あっこゴリラ:おもしろいですね。山崎さん的に特におもしろいと思う、初期の変革期ってどのようなものがありますか?
山崎:この人たち、変革期ばっかりなので(笑)。その中でも注目するのは、やはり初期の『キモノ・マイ・ハウス』がイギリスでヒットし、そのアルバムからシングルになった『This Town Ain't Big Enough For Both Of Us』が全英で2位になったことだと思います。
■本人が語る、SPARKSの姿
今回番組では、SPARKSのお二人、ロンとラッセル本人への直接インタビューも敢行。ここからはそのコメント内容をお届け。まずは、キャリアの中で柔軟に様々な音楽を取り入れることができた理由を訊いてみた。
「そもそも自分たちは、同じことを続けたくないと考えている。今まで25枚アルバムを作ってきたけど、最新作が常にデビューアルバムのようなバンドでいたいと思っている。そういう精神を持って、続けているんだと思う。
例えばローリングストーンズは、もう「今の時点のストーンズは”こういうものだ”」とみんな受け入れているから、ある意味、驚きはないと思う。次に何かするサプライズはないと思っている。
自分たちは今この時点でも、音楽だけではなく、今回の映画『アネット』もそうだけど、ものすごいサプライズがあって 新鮮な自分たちでいられている。
だいたい普通に考えると、これだけのキャリアのあるバンドが、今、自分たちの構想した映画がアダム・ドライバーやマリオン・コティヤールのような素晴らしい人たちに映画化されるなんて、普通じゃないことだと思うし、“普通”じゃないことが、自分たちを常に前を向かせてくれる理由だと思っている」
あっこゴリラ:「最新作が常にデビューアルバムのようなバンドでいたい」って、かなりシビれるパンチラインですね。アルバムのたびに音楽性が変わっていくSPARKSですが、ディスコやシンセサイザーを取り入れたサウンドになっていったのは80年代ですか?
山崎:それは70年代後半ですね。エレクトロディスコみたいなものを取り入れて、それで『No.1 In Heaven』というアルバムが大ヒットします。
あっこゴリラ:おお~! ちなみにその後はどうなっていくんですか?
山崎:その後、しばらくポップ路線があるんですけど、80年代後半はティム・バートン監督の映画プロジェクトがあって、それに全力投球します。そのためしばらくアルバムを出さなくなっちゃうんですけど、1994年に復活を果たします。
あっこゴリラ:なるほど~。1994年はどういった音楽性なんですか?
山崎:その時期は、ある程度エレクトロニクスを取り入れながらのポップなサウンドで、のちにペット・ショップ・ボーイズが影響を受けるようなサウンドでした。
あっこゴリラ:へえ~! その時期ごとに影響を受けたアーティストがいっぱいいるってことですね。
■映画との数奇な運命
ドキュメンタリー映画『スパークス・ブラザーズ』、さらに音楽を手がけた映画『アネット』も公開された、活動52年、現役バリバリの兄弟ユニット「SPARKS」。
そんな彼らを知るための二つ目のキーワードは「映画との数奇な運命」。
あっこゴリラ:このキーワードは、どういうことなのでしょうか?
山崎:彼らの人生は、映画と音楽両方が対になっている外せないキーワードと言えます。2人とも大学で映画を学んでいたほどの映画ファンで、常に映画音楽制作を夢見てきましたが、過去に2度も暗礁に乗り上げてしまったという、何度もアプローチするのに振り向いてもらえない運命だったんです。
あっこゴリラ:じゃあ、そんな二人が『アネット』で映画音楽を担当したというのは、夢が叶ったってことですね。
山崎:そうですね。今回、原案と音楽担当で『アネット』が実現したということは、まさに念願の映画デビューと言えますね。
ここで再び、SPARKSのお二人へのインタビューを紹介。今回、ドキュメンタリー映画『スパークス・ブラザーズ』も公開されているが、エドガー・ライト監督からはどのようなオファーがあり、ドキュメンタリー映画の制作を快諾したのか訊いてみた。
「エドガー・ライトのことはもちろん映画監督としては知っていたけれども、個人的には知らなくて。でも実は、彼がスパークスのライブを何回か観に来ていてくれたんだ。
それで最後、LA のライブをやったときに楽屋に来て”絶対にドキュメンタリーを作るべきだ!”という風に言い始めた。
そのときフィルロードっていうレゴのアニメーションを作っている監督も一緒にいて、”世界はSPARKSを知るべきだ!”と熱弁を振るうエドガー・ライトに”じゃあお前が作れよ!”とフィルロードが言って、”じゃあ作ってもいいですか?”となった。
これまでもSPARKSのドキュメンタリーを作るという話はいろんなところからもらっていたんだけど、良いと思える監督に実は出会えてなくて。でも、今回そのエドガー・ライトから言われたときに、彼のSPARKS愛みたいものをすごく感じたし、フィルムメーカーとして彼が持つスタイルとかセンスっていうのが もうSPARKSにぴったりだなって思えたのでOKを出しました」
最後に『アネット』について。映画音楽はSPARKSにとって念願だったと思うが、創作を振り返りどうだったか、本人たちに訊いてみた。
「ドキュメンタリー映画の中でも語られているんだけれども、自分たちにはこれまで、二本の映画を作りかけて、立ち消えてしまった映画プロジェクトがあって。
一本はジャック・タチ監督、もう一つは『サイキック・ガール 舞』っていう日本の漫画の実写化をティム・バートンで進めていて、これが駄目になってしまった。
今回は8年かかりましたけど、この『アネット』がカンヌのオープニングで上映され、やっぱり自分たちは大の映画ファンなので、それはとても信じられない喜びだったし、9年前にこの『アネット』を最初に書いたときは映画ということではなくて、自分たちの音楽として書いていたんですよね。
それがその9年後にレオス・カラックス監督によって、映画になったっていうことを考えると、なんかもう奇跡としか思えないよ」
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