玉子ガニ

 午後の昼下がり、近所のコンビニで遅めの昼ごはんを買おうと店舗内を歩き回る。特売コーナーに、「玉子ガニ」。これはなんだ、見た目が卵の様だから玉子ガニなのか、そしたら卵ガニではないのか。食べたら鶏卵の様な味がする、これも卵ガニではないのか。どうにもしっくりこない。第一、鶏卵の呼称をカニにつけるなんてカニに失礼ではないのか。

 調べてみると、どうやら玉子カニとは、卵を持ったアカイシガニを甘辛くあげたものであることがわかった。酒と一緒に食べられるおつまみであった。なるほど、卵と聞いたら鶏卵と思いついた自分が傲慢だったわけだ。

 では卵と玉子の違いはなんだろう。これは見当もつかない。孵化する前の生殖細胞や孵化する前の状態が卵、調理した卵や調理されることが多い鳥類、特に鶏の卵を玉子と言うらしい。これはわかりやすい。つまりは、卵を持ったアカイシガニを調理したから玉子ガニなのだ。

 言葉を詳しく調べることは面白いとか、日本語って不思議だな〜とか言うことを論じるつもりもない。そんなのは今に始まったことではない。私が普段から使っている日本語は変わらず美しく魅力的で奥が深いのだ。今更それについて議論することは、まともに母国語を調べずに無意識の中でしか使わず、日本語に対しての不誠実の表れでしかないからだ。

 そんなことより私は、ここまで興味を持った玉子ガニを買わなかったのだ。普通なら、そこまで値段の高いものでもないし一回は食べてみようとするはずだ。第一、玉子ガニと食べ物を主題としているのに、食べないで文章を書くのはいかがなものだろうか。

 理由は簡単だ。食べたくなかったからだ、食べたくもない商品を買う方がおかしい。私が食べ物を食べるのは、食べたいからだ。生きるためでも、お腹が空いたからでもない。ああ、なんと単純な男だろう、なんと浅ましいのだろう。まあいいだろう、こう言う素直なところが好きなのだ。

 ああ、日本語がある国に生まれてなんて幸せなんだ、ああ人間に生まれてよかった。

 

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