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【禍話】こっくり譚「こっくりパンのたたり」【リライト】

 昔、地域によっては学校を休むと、同じ地区に住む同級生が給食のパンを届けてくれることがあったそうだ。食中毒などの衛生面の観点により、いつからかその習慣は無くなってしまったらしい。
 これは、そんな頃の話。

**********

 Aさん当時、クラスでいじめられていたそうだ。ある日、風邪を引いたAさんは学校を休み、例によって同じ地区の同級生がパンを届けに来た。その日はよりによって、Aさんにいじめをしていた同級生の一人だったという。嫌だなあ、そう思ったAさんは直接会うことなく、家族が変わりに受け取ってくれたという。
「クラスの子がパン持ってきたよ。どうする、食べる? 捨てる?」
 体の具合が悪いときにパンが食べれるかと言われれば、そうではない人のほうが多いかもしれない。家族は捨てる処分することも視野に入れていたようだが「一応……」とAさんは紙に包まれたコッペパンを受け取った。

「あれ……?」
 よく見ると、パンを包んでいる紙に何か書いてあった。裏表を逆にしていたようで家族は気づいていなかったようだ。鳥居の絵と、あいうえお……と五十音順に書かれた平仮名。その紙は「こっくりさん」で使われた紙だとすぐに分かった。更によく見ると、紙の上でお金を引きずったような跡も残っている。
(「こっくりさん」に使った紙で包んだコッペパンて……うわ、最悪だ……)
 Aさんは「そういったもの」が苦手な子供だった。パンを食べる気なんかは勿論失せてしまったし、何より紙の処分にも困ってしまった。

 その後「こっくりさん」に使われた紙は、家族にバレないようなんとか処分することが出来たそうだ。だがそんなこともあって、熱も下がり風邪は治ったものの精神的に気分が悪くなり、翌日も学校を休もうとした。だが厳しい家族からは「平熱なんだし休む理由がない」だとか、そんな理由で却下されてしまった。子供ながらになんとか熱を上げようとしたらしいが、その努力は報われることはなかった。
 翌日、Aさんは渋々学校へと向かった。

 その日、パンを届けに来た同級生は学校を休んだ。
 恐らく、一緒に「こっくりさん」をやっていたであろう、同級生数人と一緒に。
 Aさんは最初「ラッキー」程度にしか思わなかったのだが、中休みくらいの頃に「もしかしてヤバいのでは……?」と思い始めたそうだ。

 「こっくりさん」で使った紙は、正しい方法で処分しなくてはならない。
 Aさんは「こっくりさん」をしたことはなかったものの、そのくらいのルールは知っていた。もしかしたら、紙をぞんざいに扱った彼らの身に何か起こったのでは……? と思ったそうだ。

 同級生たちは、それから一週間ほど学校を休んだ。

 再び登校してきた同級生たちは、体調が悪いと言うよりは落ち込んでいるような雰囲気で、みんなどんよりとした暗い面持ちだったそうだ。彼らはAさんの元へおずおずとやってきて、今までにない目で見つめながら尋ねてきたという。
「あの……紙……ちゃんと処分していただけましたか……?」
 今まで散々自分をいじめてきた人間が、敬語で恐る恐る話しかけてきた。ああ、やっぱりそうだ。「こっくりさん」の紙をあんなふざけたことに使ったせいで、きっと何か良くないことがあったのだ。Aさんはそう思い、
「あー、ちゃんと処分はしたよ、わたしの家で」
 と伝えた。それを聞いた同級生は
「あー、そうなのかなー……」
 何故だか不安そうに呟いた。
「ちなみに……何があったの?」
 Aさんは何が起こったのか尋ねてみた。

 それは、「こっくりさん」を行った全員に、同じことが起こったという。

**********

 夜、トイレで目が覚める。子供の頃はよくある話だ。
 いつも通りに自宅のトイレの扉を開け、閉める。
 すると、そこは見慣れた自宅のトイレではない、知らない場所になっているという。

 壁にあるカレンダーも違う、スリッパも違う、床に敷いてあるマットも違う……。そこは全く見覚えのない、知らない家のトイレだった。
 慌てて出ようとするものの、向こう側から誰かがドアノブを押さえていて、出られない。
 どうやら向こう側には老婆が立っているらしい。その老婆はドアノブを押さえながら、大きな声でこちらに向かって怒鳴りつけてくるそうだ。寝ている家族にも聞こえてしまうような相当大きな声だったそうだが、誰一人として起きてくる様子は無かったという。

「右に曲がるものを左に曲がるからこうなるんだ」
「空を飛ぶものを見て、何でお前は海で泳ぐと思ったんだ?」

 言ってる内容はさっぱり理解出来ないが、向こう側でドアノブを押さえつけている老婆が、尋常ではない怒りの感情をこちらに向けていることだけは明確だった。とにかく扉に向かって「すみません! すみません!」とひたすら謝罪し続けたそうだ。

 そんな押し問答が、一週間続いたという。

**********

「……朝起きたらものすごく疲れてて、最初は何があったか全然思い出せなくて。それが二、三日したら段々覚えてられるようになって……。『トイレに行く度に怖いことになる』って……」
「一週間くらいでやっとそれが無くなって、学校にやっと来れるようになったんだけど……」
「絶対『こっくりさん』の紙をあんなことに使ったから……ふざけてあなたに送ったからだって……。だから、本当にごめんなさい……」
「もう二度としません……」
 同級生たちはごめんなさい、ごめんなさい、と繰り返しAさんに頭を下げてきた。
「ああ……。でもわたし、あの紙どうしよっかなって思って調べて、本に載ってたやり方でちゃんと処分したから……大丈夫だと思うよ」
 当時、子供向けの雑誌などで「こっくりさん」のことについて書かれている物が多く出回っていたそうだ。Aさんはそこに掲載されていた方法を読んで、紙を処分したという。
「ありがとう……ありがとう……もういじめないから……ごめんね……」
 それから、Aさんに対するいじめは無くなったそうだ。

**********

 Aさんは同級生からトイレの話を聞いていた際、引っかかっていたことがあったそうだ。
「トイレ入ってすぐのところに水墨画みたいなのが飾ってあったみたいで、あの子達はそれ見て『うちのトイレじゃない!』って思ったらしいんですけどね、それ聞いてわたし、ああ、うちのトイレだなあ……って、思ったんですよね……」

 いじめっ子の同級生たちは、その知らないトイレで、水墨画のようなデザインのカレンダーと、窓に季節外れのサンタのような小物が飾ってあったのを見たという。
 それらは全て、Aさんの家のトイレの特徴と同じだったそうだ。

 Aさんには思い当たる節があった。
 彼女は決められた手順通りに「こっくりさん」の紙を破り、家のトイレで流したという。

 同級生が、自分の家のトイレで怖い目に遭ったらしい。 
 何故だかAさんはそのこと対し、「怖い」とは特に感じなかったそうだ。

**********

「どうです、かぁなっきさん。『こっくりさん』ならずとも、家のトイレまでいっちゃいましたよ」
「何でお前そんなにドヤ顔やねん。お前の手柄ちゃうやろ」

 この話を聞いてきた「Kくん」とかぁなっき氏の間で、こんなやり取りがあったとか、無かったとか。

 「こっくりさん」は良くないという、話のひとつである。

【終わり】


このお話は、配信サイト「ツイキャス」にて毎週土曜日に行われます「禍話」より シン・禍話 第三十三夜 「こっくり譚『こっくりパンのたたり』」を編集・再構成し文章化したものです。
 実際の音声語りとは表現が異なります。気になる方はぜひ、本編を視聴してみてください。よろしくおねがいします。
 また、作成にあたり 禍話 簡易まとめWiki を参照させていただいています。ありがとうございます。

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