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『河原』『金持ち』『封筒』

 金持ち喧嘩せずというのは嘘だ。その実例が目の前にある。
 我が校には地域随一の金持ちが二人通っている。日本を二分する自動車系企業の御曹司が通う高校なのだ。高校生の分際で学閥を形成しており、日々鞘当てが行われている。

「テメエん所の新入生がウチの車で暴走しやがったせいで面目丸つぶれだ!責任取れ!」
「うるせえ!そいつに鼻薬嗅がせたのはテメエの派閥の奴だろうが!」

 川原で喧嘩する二人は喧嘩にも秀でており、お互いのクロスカウンターが顔面に突き刺さった。
 派閥ができれば抗争が起きる。抗争が起きれば治安が悪くなる。治安が悪くなれば、超えるべきではない一線を超える者が出てくる。
 今回起点となったのは、新入生が起こした暴走事件の責任をどちらが取るのかという問答だった。揉み消すという選択肢は無い。新入生が起こした暴走事件は派閥を巻き込んで巨大化し、最終的には関東圏全域で問題になっている広域暴走集団を潰してしまったのだ。ここまで事が大きくなれば警察沙汰は避けきれず、巨大自動車メーカー二社とはいえ、それを握り潰すのはリスクの方が勝ったらしい。
 どうあれ社会的に問題となってしまったからには学閥内でも落とし前を付ける必要がある。どちらにも原因があり、どちらが責任を負うかという議論は遂に殴り合いの喧嘩という方策に行きついた。
 暇で、平和だった。二人によって見物が禁止されているこの殴り合いにおいて、唯一の見物人である俺は立ち合いを兼ねている。そんな立場に居られるのは、俺こそが騒動の中心人物である暴走事件の主犯だからだ。
 そんな事件を引き起こしたのには理由がある。ポケットから二つの封筒を取り出す。今殴り合いをしている二人の名字が書かれていた。

「息子の学閥ごっこを止めてくれ」
「息子を普通の高校生にしてくれ」

 殴り合いをする二人を見る。
 やれることはやったが、やりすぎたかもしれない。

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