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『泉』『戦』『荷札』

 泉を巡る戦は我々の敗北で終わった。なぜ泉を争っているのかというと、そこがこのあたりで唯一の、飲める水飲み場だったからだ。そこに女神がいるからだとか古代文明の産物があるからだとか様々な推定はされているが、それらは全て結果ありきの因果推定だった。つまるところ、俺たちが水を飲むためにはその泉を使うしかないという状況を追認するための。

 耳に荷札付きのピアスを刺される。負けたからには商品にされるしかない。致し方ないことだった。なにせ飲める水は限られている。命の水アクア・ウィタエを巡った争いに負けたのだから、命を売り飛ばされるのは当然の帰結である。

 トラックに乗せられる。行き先は分からない。ただ、金を払ってでも人を買いたいと、それも大量に買いたいという人でなしのもとに行くことになるのだから明るい未来を夢見るべきではないだろう。

 ── 結論から言えば、俺たちは人間浄水器に加工された。汚染された水を飲み、代替可能な人工臓器を通して汚れを固定化し、尿として飲用水を排出する。泉の飲料水はそうやって作られていた。

 鼻をつまんで汚水を飲む。尿を出す。そうすると世界は少しずつ綺麗になっていく。尿というのに綺麗というのはいかにも可笑しかった。想像していたよりも地獄は愉快な場所だったらしい。

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