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ゾーフィのオリジナルを辿ってみる【シン・ウルトラマン】

○はじめに


 こんにちは、たろうです。「シン・ウルトラマン」面白かったですね。今回はその中でも第5の事件たるゼットン戦にフォーカスを当ててみました。
 オリジナルである初代「ウルトラマン」と明らかに異なる点として、「ゾフィーがゼットン連れて地球を焼きに来る」というものがあります。
 本家ではゼットン星人が死に際にゼットンを放ち、応戦したウルトラマンが敗北するも科特隊の無重力弾で撃破、力尽きたウルトラマンの前にもう一人のウルトラマンであるゾフィーが現れ、ウルトラマンに命を与えて光の国に連れ帰る…という展開。なのになんでか、助けに来るはずの兄ちゃんがゼットンけしかけてきている。しかも最後の展開はほぼ同じ。なんなんすかねこれ
 
とはいえこの展開、完全な虚無から生まれたものではない。大昔の児童誌ではなぜか「ゼットンを従える宇宙人・ゾーフィ」という誤った情報で紹介されていたのです。ネットでは昔から有名な小ネタであり、こんな格式ばった場でこのネタを拾う展開に度肝を抜かれた人も多かったのではないでしょうか。もちろん、オリジナルみりしらの人からしても「なんなんすかねこれ」と思った方は多いと思います。どうしてこのような愉快なことになってしまったのかはネットに書いてある内容が全てなのですが、せっかくなので色々と親資料を触ってきました。その辺り雑に振り返っていきます。

その1

 インターネッツにおいて一番わかりやすく経緯が書かれていたのがこれ。

 これ以来アニヲタwiki信頼してるそこには、週刊朝日1967年4月7日号に宇宙人ゾーフィの表記が現れ、これを皮切りに放送後に出版された怪獣図鑑や児童誌にも同じ情報で載るようになってしまい、ビジュアルなんかも追加され、数年の間公式設定と違わぬ扱いを受けるに至る…という流れだったとある。
 ちなみに、「さらばウルトラマン」の放送日は1967年4月9日である。はえーよホセ(とはいえ雑誌の○日号ってちょっと早いのが慣例だし、実際は直後くらいだったと思われる)。

 また、調べていく中で「ウルトラマン トレジャーズ」なる書籍(エフェットホールディング株式会社 Team Treasures 2016)に「怪獣設定表」なる資料が収録されていることが分かった。これはネットでサンプル画像を観ることができたが、ゾフィー名称だけど内容は宇宙人ゾーフィというよくわからん状況となっていた。
 上述の週刊朝日の記事はネットにも落ちてなかったので、どっちが先なのか、内容に違いはあるのか、については調べてみる価値がありそうだ。「朝日と設定表の比較」、これによってインターネッツで得た内容の答え合わせをして納得を深めるぞ!って話です。

その2

 月一の会議を破壊し有休を取得、抽選を勝ち取り参加したワダアルコ展を出たその足で国立国会図書館へ。ここには日本で出版された書物のすべてが収められており、一部資料は複写して持ち帰ることもできます。卒論書いてるとき以来だ…
 複写の申し込みをするとき、「調査研究のため」みたいな項目にチェックを入れなければならずちょっと複雑な感情になりました でも調査研だからこれ!紛れもなく!タロウのnoteだけど

 ほんの最近までは事前申し込み制で入場人数を絞っていたみたいですが、自分が行った日からそれが解除になったみたいでめっちゃラッキー。人も少なくて複写申し込みも爆速。「週刊朝日」は保存状態が厳しいので「別室で読めや…」と言われたり、「ウルトラマントレジャーズ」は箱がデカすぎて「別室で読めや…」と言われたりといった感じだったので、結果的に施設内を色々と見て回れました
 あと、3階のカフェで普通のカレー頼んだら「かしこまりました、北野菜カレーですね」と言われたので北野菜カレーを食べました 南瓜がとても美味でした。

その3

 雑にまとめにいきます。

『週刊朝日1967年4月7日号』 朝日新聞出版 1967 29頁
円谷プロダクション 監修『ウルトラマントレジャーズ = 1966 Ultraman treasures : ウルトラQ・ウルトラマン』 エフェットホールディング 2016 付録:怪獣設定表 2頁

 同じですねこれ。どっちかが1次資料であり、それを参考にもう一方が作られたのは間違いなさそう。
 時期はどうでしょうか。怪獣設定表には「1967.4」とある。同じですねこれ。納期とか考えると前者の方が先なんじゃないかと思ってしまうが、常識的に考えて最終回放送前にゼットンとゾフィーのことを書けるわけがない。最終回制作が終わった後にメディア用に公式資料として作成されたもの、という一般的な説に相違はなさそうである…

『ぼくら 1967年8月号』 講談社 1967 189頁


大伴昌司 著 遠藤昭吾 等絵 怪獣ウルトラ図鑑 : カラー版 (写真で見る世界シリーズ) 秋田書店 1968 109頁

おそらく同一の資料に基づいたと思われる児童誌。ネットで見たことあるやつですね

○おわりに

 いかがでしたか?まだまだ色々調べたいことはあったのですが尺の都合でよそうと思います。半世紀前の情報の在り方のリアル、その一端に触れることができて大変有意義でした。
 あ、以下おまけです。


○神永の遺体を見つめるウルトラマンの前に、光の星からの使者が現れる。シン・ウルトラマン第5の事件は、「なぜ、なんのために戦うのか」という、ウルトラシリーズが長年問い続けてきた宿命ともいうべき命題に「さらばウルトラマン」の骨組を用いて挑んでいる。

 ウルトラマンはどうして地球の平和ために戦ってくれるのか。
 歴代作品において、これに対する回答・解釈は様々。「セブン」は恒星観測員という仕事で来ている。「ティガ」はウルトラマンそのものが力の概念であり、人間の心がそれを光にするという図式。初代「ウルトラマン」は仕事であるのは間違いないが、科特隊・ハヤタを死なせてしまったことへの罪滅ぼしという面もある。そして、「シン・ウルトラマン」においては他者の命のため自ら犠牲になった神永を目の当たりにして抱いた「人間への興味」という(ウルトラマンーいや、この記事の内容に合わせリピアーと呼ぼう)リピアー自身の思いが入ってくる。興味から始まって、「愛」「憧れ」…公式の言葉を借りるなら、「友情」、といった方向へと明確に移っていく。好きだから戦う。好きだから守る。彼がいち知的生命体として、戦う理由はここにあるのではないかと思う。

○人間との融合を行ったリピアーの処分と、人間という兵器転用可能な生命体が惨事を引き起こすことを未然に防ぐという目的を伴い、公的な仕事としてゼットンを投げに来たゾーフィに対し「それは誤りだ」と返すリピアー。彼は人間を守るため、同郷の徒と敵対することを決める。

 リピアーの「それは誤りだ」という台詞は、彼が神永の身体を通して得た経験に基づいており、ゾーフィの主張に対し極めて主観的・私的なものであるといえる。同族である彼らの主張の隔たりが対比で示され、リピアーの心中がはっきりと描写として浮かび上がってくる。

○天体制圧用最終兵器「ゼットン」が上空に放たれ、展開を始めた。無謀な戦いに一人立ち向かうが、圧倒的な力の前に敗北してしまう。諦めるよう諭すゾーフィに対し、「人間を信じ、最後まで抗う」と答えるリピアー。

 ゾーフィとしてはゼットンに挑んで死んでもらうことを想定しているわけではないので、淡々と抵抗をやめるよう告げているのだろうか。でも投げたやつひっこめるわけじゃないので死んでもしょうがないか…くらいにはこの時点で思ってそうである

○しかし当の人間たち―政府は、ウルトラマンの敗北を受け早々に諦め、なにもせず消滅を待つことを決めてしまった。だがリピアーは禍特対にベータ―システムの基礎原理と高次元領域に関する関係式、そして仲間たちへの思いを託していた。「ウルトラマンは万能の神ではない。君たちと同じ、命を持つ生命体だ。僕は君たち人類のすべてに期待する」と。リピアーが信じた人間たちの努力によって、最後の足掻きが始まる。

 リピアーから見た「君たち人類」は極めて主観的だ。多くの人々からすれば「人間が変身しているらしいデカくて強いやつ」だし、国家レベルの人間からすればその扱いは兵器そのものである。しかし彼の人間への第一印象は神永のような自らを犠牲にして他者を救うことができる生命体なのだ。自分より圧倒的に弱い生命がそのような行いをする。彼の視点からすれば、最後まで期待したくなるのだろう。

○全世界の知恵を結集し、ゼットン攻略の計算式にたどり着いた人間。昏睡状態から目覚めたリピアーは、信じた者たちがつないだ希望を携えて再びゼットンに挑みこれを撃破。しかし次元の収束から逃げ切ることが出来ず、やがて力尽きてしまった。必ず戻るという約束を果たすことは叶わなかった。
 その後、「ウルトラマン、目を開け」と問いかける声。ゾーフィである(どの面下げてお前)。死の間際においても人間、そして仲間を想う彼の姿を見たゾーフィは彼に告げる。「そんなに人間が好きになったのか」と。
彼の願いは聞き届けられた。命は神永に託され、リピアーはその生を終える。

最後の問答でゾーフィがはっきりと口にするのがなんとも憎い。ゼットンに立ち向かい、敗北しても諦めず、今にもその生を終えようとしている時でさえ平和を案じた。「そんなに」好きだから、彼は最後まで戦ったのだ。ヒーローとして戦うのではなく、一つの生命として戦った結果がヒーローとして映る、という所に等身大のメッセージを強く感じる。「M八七」に歌われる「痛みを知るただ一人」とは、只の一人ひとり――私たちそれぞれとも読むことができるのではないだろうか。

 最後にSHHisみたいなリピアーとゾーフィの写真を上げて終わります。SHHisもこの二人くらいちゃんと話した方がいいと思います。

カミサマは死んでいない(ウルトラマンは神ではないため)


○参考文献

株式会社東宝ステラ編『シン・ウルトラマン-空想特撮映画-』 東宝株式会社映像事業部 2022
株式会社カラー編『シン・ウルトラマン-空想特撮映画-デザインワークス』株式会社グラウンドワークス 2022
円谷プロダクション 監修『ウルトラマントレジャーズ = 1966 Ultraman treasures : ウルトラQ・ウルトラマン』 エフェットホールディング 2016
『週刊朝日1967年4月7日号』 朝日新聞出版 1967
大伴昌司 著 遠藤昭吾 等絵 怪獣ウルトラ図鑑 : カラー版 (写真で見る世界シリーズ) 秋田書店 1968
『ぼくら 1967年8月号』 講談社 1967







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