Alloy706の基礎知識

Alloy706の基礎知識として、論文からの情報をもとに記載したいと思います。英語の方がわかりやすいという方は、直接論文を参照ください。


Alloy706とは 

Alloy706は、Allo718から派生した、析出強化型超合金です。ガスタービンなどの大型鍛造用途として改良された合金です*1。
Alloy718と比較して、Fe、Ti含有量が多く、 Cr、Mo、Nbの含有量が少な点が特徴であり(表1)、大型製造性に優れた改良合金といわれています。これは、Alloy706がAlloy718と比べて凝固偏析*3 が抑えられた成分に調整されているためと考えられます。
Alloy706は、航空機もしくは工業用ガスタービンのタービンディスク、シャフト、ディフューザケース、圧縮機のディスク、シャフト、ファスナー(留め具、ネジ製品)などが主な用途となります。

表1 Alloy706、Alloy718の合金組成 *2

Alloy706の組織

典型的なNi基合金(Ni-Ti-Al)において、(特性付与の観点で重要な溶質元素である) Ti+Al量が10%以下であるとき、γ+γ'の2相組織を呈します(図1)。Alloy706もこれに該当します。
図1の補足:鍛造Ni基合金の製造プロセスの一例としては、インゴットからスタートし、まず初期の加工工程において、γ'相が析出しない高温域にて加熱し(強度が比較的低い状態で)、鋳造組織の破壊、形状付与をおこないます。その後の加工工程および最終の熱処理において、比較的低温域での加熱によりγ'相を析出し、最終的な形状付与、特性付与をおこないます。この一連の過程を行うためには、高温域ではγ単相、低温域では析出相と平衡するような合金組成であること(図1のような状態)が求められます。
γ'相は、クリープ特性と高温強度に寄与し、組成と温度によって変化します。Alloy706の典型的な組織を図2に示します。

図1 Ni-Al-Ti 3元系状態図 *1
図2 Alloy706の典型的な組織 *1

Alloy706で工業的に推奨される熱処理条件を図3に示します。このうち、Stabilization age (Stabilization heat treatment)は、粒界析出を促す工程であり、処理温度を変化させることで、η相の析出量、析出サイト(場所)、形態を変化させ、クリープ特性に影響を与えます*2(詳細は文献*2の内容になります)。このstepにおいて、η相は粒界に不連続析出*5 し、γ"/γ'solvus近傍の温度域の延性を向上させます*1。
補足:図4に示す通り、Stabilization ageはη相析出のノーズ温度とほぼ重なり、最もη相を析出しやすい温度域であると考えられます。

Alloy706の主要な構成相は表2に示す4相です。

図3 Alloy706の熱処理条件 (工業用) *1
表2 Alloy706の主要な構成相 *1
図4 Alloy706のTTT *1

Alloy706の組織変化

Alloy718と異なる点は、γ'相が長時間側でより安定なη相に変化する、γ"相が長時間側でδ相に変化しない(代わりにη相に変化する)、の主に2点です。
組織の変化に関しての説明は以下が原文ですが、正直正しく理解できている自信がありません。別の論文を見ながら改めて確認したいと思いますが、わからないなりに意訳を書いておきます。

γ'について
705℃以下(時効処理)で球状のFCC L12 *4のγ'相が析出、より安定なη相に変化します。その際のη相は、650℃℃以上の温度で長時間保持した場合、粗大な血小板形状となり、粒界から成長したセル上組織(コロニー) 、もしくは、粒内にてウィドマンステッテン構造となります。
γ"について
705℃~760℃で、BCT D022の規則構造にてディスク形状に析出します。この相は、Ti richのη相析出の開始と関連しており、γ'相と一緒にη相に変化します。←ここまで意訳 (η相がNi3(Ti, Nb)であることから、γ'、γ"ともにη相に変化すると考えられますが、本当にあっているのでしょうか) 

Alloy706では、Stabilization heat treatmentにより、セル上もしくは針状の析出が広範囲で発生します。これは、orthorhombic(直方晶)のNi3Cd と、六方晶のNi3(Ti, Nb)のη相で構成されます。η相は、Alloy 718を含むNi-Fe系合金で析出が確認されています。

そのほかの相は、Laves相、Nb, Ti richのMC炭化物です。Laves相は、870℃~925℃で長時間保持されたときに、η相と同様に粒界に発生します。MC炭化物は、プロセスおよび時効処理中に、粒界に微細に析出します。

Alloy706の組織設計

理想的には、長時間の熱処理(過時効)でη相が粒内に析出した場合よりも、短時間の時効処理で、γ/γ"を均一微細分布することで優れた強度が得られます。*1

*1の論文の内容は、主に以上です。
次の記事では、*2の論文のAlloy706の組織と強度特性の関係性について読んでみたい思います。

*1 文献:Misty Pender, 2007
*2 文献:T.Takahashi et al., Superalloys 718, 625, 706 and Various Derivatives, 1994
*3 凝固偏析・・・溶質元素を含む溶融金属が凝固するときに溶質元素が偏析すること。詳しくは別の記事で説明(予定)。Ni基合金では、特性向上のためNiと比重の異なる元素を多く含むため、この凝固偏析が生じやすく、大型品製造時のネックとなっています(文献:三菱重工技報 Vol.52 No.2, 2015)
*4 結晶構造・・・別の記事で改めて説明(予定)
*5 連続/不連続析出・・・別の記事で改めて説明(予定)





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