最近の記事

マルとメル

 重力を背負いながら歩く、満月からの視線を感じる。ただただ始まる一日を、血が通っていない全身で過ごす。落ち葉の上をバリバリ歩く。仕事終わりは、この公園のベンチで座ることが多くなった。なにかするわけでもなく座るだけ。  赫赫した月とは最も遠いところの背中をみて、緊張と恐怖がキャップを深く被らす。ベンチに向かって足を進める、薬指の指輪を取ってポケットにしまった。  突然、キャップの男が隣に座った。たぶん三十歳後半くらいの雰囲気。切れかけの外灯一本の公園では雰囲気しか手がかりに

    • レモネード

       夏に凍えたのは、初めてだ。  2人で分け合ったスタバのキャラメルフラペチーノ。朝まで繋がったままのテレビ電話。2人で感激したモネの池。ストロベリームーンの下で乾杯した缶チューハイ。  月が綺麗な日は毎回、彼女に「今日、月が綺麗だよ」と言った。彼女が夏目漱石を好きではないことを知っている上で言った。好きなら絶対に言えない。「月って昔の光で輝いてるんよ」「へぇーそうなんだ」いつも内容のない会話だった。それが心地よかった。それらすべてがフラッシュバックして消えた。  その一言

    マルとメル