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How to Quit Smoking/脱煙草

数年前煙草を辞めようと思って、所謂”禁煙”にトライした。
まずは、「自分で煙草を買わなければ吸わない」という考えの元、暫く買うのを封印してみた。そこから自分は貰い煙草をしまくるどうしようもない奴になり下がった。

誰かと一緒に酒を飲んだ時、リリックを書いて爽快感に満たされた時、何かと理由をつけて友人先輩音楽仲間に、目を細め微笑を浮かべそして手刀を切りながら、「一本いいっすか」と貰いまくっていた。あの時、嫌な顔せず煙草をくれた皆さん本当にありがとうございます。

じゃあ家で一人の時は吸っていなかったのかというとそうではなくて、深夜2時か3時に近くのセブンイレブンに買いに行っていた。告白すると、煙草を吸わないと大して寝れなかったのである。まあつまり「禁煙を頑張っている」という仮面を被ってその実、吸いまくっていたんですね。

次に思いついたのが、煙草の本数を減らすこと。
禁煙→挫折→減煙 というのは禁煙を志す人間の黄金ルートで、周囲から見ると人間の意志の弱さをありありと痛感するのですが、当の本人は至って真剣なので救いようがない。

煙草の本数を減らしたいなと思ったのは、自分の「一度開けたら空にするまで気が済まない病」のせいで、これは皆さんも経験あるとおもうんですけど、ポテトチップスとかチョコレートとか「ちょっとだけ」と思って袋を空けて次の瞬間には袋が空になっているというあれです。

自分も「袋に何かが残っている」という状態が気になってしまって食べたくないのに(吸いたくないのに)食べてしまう(吸ってしまう)。これは昔からそうで、なのでお菓子をちょっとだけ食べて輪ゴムで縛っておける乾君(DUCK HOUSEの住人)の姿を見ると、この人は聖人君子の所の生まれで住む世界が違うんだな、と感じる。

煙草の話に戻ると、それまではずっとロングピース(クリーム色のジャケットのPeace)を吸っていたのだけど、「一度開けたら~病」のせいで一夜で20本とか吸っていた。でこれを防ごうと思って一箱10本入りのHOPE(緑)に変えたんですね。

これで減煙を達成できる!と思ったのも束の間、セブンイレブンで1箱買った2時間後に別のローソンでもう1箱買ったり(きまずいから)する事もありました。はっきり言って恥ずかしい、禁煙失敗歴のある人は殆どの確率で減煙失敗の歴史もあるんじゃないかなと思う。

ちなみに罪悪感だけはいっぱしのもので、ちゃんと毎日落ち込んでた、「ああ、また吸ってしまった」と、、そしてその気持ちを落ち着かせるためにまた煙草を吸う。もはやショー。

次に思いついたのが、「離れ離れ作戦」。
これもいたってシンプルで、煙草を買って1本吸ったらどこか遠くの場所に残りをおいておくというもので、文字通り煙草を「遠ざける」作戦ですね。で、家から1km位離れた公園のベンチの上とかに放っておいて今生の別れを告げて帰るというのをやっていた。

昔のトレンディドラマとかで携帯を海に投げ捨てて、過去と決別して「はああ、すっきりした」的表情を浮かべる主人公のアップ、みたいなシーンがありますけど、自分もこの「離れ離れ作戦」を決行したときはこのトレンディ俳優と同じ清々しさをもってその公園を後にするんですね。

ただ悲しいかな、1,2間後には見事に同じ公園に姿を現して、「えーっとどのベンチだったっけな」とか記憶を頼りに煙草を探している、そして本当に怖いのは、ちゃんと同じ場所に合った時「良かったあ、盗られてなかった!」と心の底からハッピーになる。人間ってほんとに多面的です。

そして、最後の最後。この方法で自分は煙草を止める事が出来た。
まずこれまでの作戦が悉く失敗に終わり感じたのは「吸いたい」という気持ちは無くならないということ、これを止めるのは不可能、なので自分の吸いたい時に吸っていい、その代わり一つのルールを設けました。

「1箱買って1本吸ったら残りの19本を折って捨てる」のがそれです。
シンプルだけどやってる事としてはアホの頂点みたいな行動で、好きな人にほどよそよそしくしてしまう「好き避け」の最終形態。好きだからこそ会う時は自分の服をびりびりに破いてヘブライ語しか喋らないキャラでいく、ぐらいな感じ。

この作戦の良いところは、確かに吸いたいだけ吸えるけど、金がものすごい速さで無くなっていく事。andymoriの『すごい速さ』くらい速い。

気をつけるべきポイントは2つで、1つ目は最初の1本を吸ったその瞬間に折る事、罪悪感に苛まれて「この1本を人生で最後の1本にする!」という決意が続くのは1分にも満たないのでその間に折ってください。

もう1つは根元から折る事。ショートピースとかは別だけど、殆どの煙草にはフィルターがあってそこを折ったらもう何が何でも吸えません。なので必ずこのフィルターの部分を折ってください。で、なぜこれがポイントかというと、ここのところは、フィルターを折らずに他の部分を折って捨てた僕がどんな行動を取ったのか、を是非想像してください。

確かこの「19本折る作戦」を、10回くらい実行した後に完全に禁煙に成功してそこから1本も吸っていない。これ1回やってみたらわかるけど、やると結構ショッキングな気持ちになる。

たとえが悪くて恐縮だけど、美味しそうなマカロニグラタンを買ってきて一口食べてその後、すぐに捨てるところを想像してください。しかもお腹が空いているのに。これを10日連続でやってたら恐らくもう一生マカロニグラタン食べれなくなる気持ちもなんとなくわかるかと思います。

その光景を見ている人は勿論、当のマカロニも「えーっ」って声を合わせてビックリしてるはずだし、同じように19本のマルボロ(緑/当時はマルボロに変わっていた)も「えーっ」って言っていたのは間違いない、「いやあんた今1本口にくわえているじゃないですか。」

という事で、「19本折る作戦」は見事に成功してあれから約2年半1本も吸っていない。というと立派な事を言っているように聞こえるけど、こういう断言をすると、逆に無性にタバコが吸いたくなって禁煙失敗という滑稽話をまた一つ作ってしまう気もするので、正直に言っておくと今も「煙草吸いたいなあ」と良く思う。

すごい楽しいことがあった時や人生の転換点になりそうだなという瞬間に特に吸いたくなる。だけど吸わない。あの時の19本のマルボロ(緑)の気持ちを考えると吸えない。

ちなみにこの話から得られる教訓としては「悪習慣から抜け出したいときは大いなる矛盾を作れば良い」というものがある。認知的不協和をうまく使った例と言えるかもしれない。

認知的不協和 - Wikipedia

昔読んだ本で誰か(町田康あたり)が「『死にたい』と言っている人間がいたら王将に連れていけ」と言っていたけど、これも大いなる矛盾を作り出すという意味では共通しているかもしれない。口からニンニクの匂いをさせ、腹パンの状態で自殺する人って殆どいないと思う。

という事で煙草を止めたいと思っている人は是非「19本折る作戦」を実行してみてください。


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