見出し画像

朝ボトル

久しぶりにnoteを書こうと思い立ちました。名古屋市西区の那古野という街で伊勢茶専門店の店主をしています、mirumeの松本壮真です。

mirumeを2021年5月にオープンしてから9ヶ月ほど。色んな事がありました。

ひとまず今日はmirumeになってから新しく始めたサービス『朝ボトル』について書こうと思います。

ちなみに『朝ボトル』は色んな方が取り上げて下さっているので、そちらの記事の方が概要が分かりやすいかもしれません。

  1. 『IT MEDIA』
    https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2112/25/news025.html

  2. 『日経クロストレンド』
    https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/watch/00013/01579/

  3. 朝ボトルのデザインしてくれた『kenma』
    https://www.kenma.co/asabottle

  4. 『mirume』のwebサイト
    https://shinryokusabo.co.jp/pages/asa-bottle

そんなこんな『朝ボトル』ですが、noteでは概要と思いつくに至った経緯などを細かく書いていこうかなと思います。

朝ボトルとは

説明する方がややこしくなりそうなので、まずはデザイナーさんが作ってくれたポスターを御覧ください。

210427_SRS_poster_B2_manualのコピー_page-0001 (1)
朝ボトルポスター  designed by kenma

こちらの茶葉入りのボトルを定休日水曜日を除く平日8〜10時の通勤時間帯に販売しています。
1本300円。飲みきったら3回目(3煎目)までお楽しみいただけます。

『朝ボトル』を思い至ったのは、実は何か1つの要因から生まれたのではなく、同時に考えていた複数の事を解決する事ができるサービスが『朝ボトル』だったというのが正直なところです。多くなるのですが、当時考えていた事を1つずつ書きます。

要因①

改めてですが、僕はお茶農家に生まれました。子供の頃は家に帰ればだいたい冷蔵庫に水出し緑茶が入っていて、食事が終われば誰かがお茶を淹れてくれる生活をしていました。僕にとってお茶は圧倒的に日常で、そのため『お茶=嗜好品』という表現に対して少し違和感を持ったりもしました。だから僕はもっと日常的に飲んでもらうお茶も提案したいなと思っていました。

要因②

お茶というのはですね、完全なる衰退産業なんですね。下図のように家計調査によるとお茶の消費量・消費額ともに年齢と綺麗に比例しています。つまり年齢が高い人ほどお茶を消費していて、お茶にお金を使ってくれています。そして60代以上がそれらの半分以上を占めています。
少し話が逸れますが、「歳を取ると野菜を食べるようになる」と言われる事がありますが、これは間違っているという話があります。もちろん油ものが食べづらくなった等はあると思いますが、基本的に今の高齢の方が野菜を食べるのは昔から野菜を食べていたからであって、昔から肉を食べていた人は高齢になっても肉を食べる。つまり『食習慣は簡単に変わらない』という話があります。個人的にはこっちの方がしっくりきます。
という事は今の若い方が歳を取ったらお茶を飲むというのは幻想で、今お茶を飲まない人が高齢になってもお茶を飲まないという事になります。
これはお茶農家に生まれた身としてなんとかしたいなぁと思っていました。もっと気軽にお茶を飲めるサービスを始めたいなと思っていました。

出典:総務省家計調査「緑茶の年齢層別の消費動向


要因③

実際の地元の風景です

地元に帰るとソーラーパネルが増えています。帰る度にというと大げさですが、『え、ここもソーラーに!?』という事が頻繁にあります。子供の頃に歩いた通学路にも、遊んでいた茶畑にも、どんどんソーラーパネルが増えています。これは当然お茶が作れなくなったからであり、それはお茶が仕事にならなくなったからでもあります(後継者問題などありますが、多くの場合ちゃんと収益になるのなら誰かはやると思うので、そう考えると収益もあまりあがらないという事が想像できます)。
深緑茶房が買取を依頼され、安請け合いをするわけにもいかずお断りした茶畑がソーラー畑になった事がありました。
ソーラーにするならばと買取をこちらから依頼したのですが、ソーラー業者さんは相場の3倍で買い取るとの事で全く歯が立ちませんでした。
僕は後からこの話を聞いたのですが、聞いた時には非常に無力感を感じました。どんどんお茶が売れれば茶畑の買取を即決できたと思います。もっと余裕があれば地域のためにと買えたと思います。エゴですが、ソーラーを見るともっとお茶を飲む人を増やしたいなぁと思ったりしていました。

要因④

作り手の心情として『自分が作ったものを好きになってもらいたい』という思いがあると思います。手間暇かけて、思いを掛けてつくったものですから当然です。
ただ僕はこれだけ多種多様な飲み物がある社会で「お茶を好きになってもらう」というハードルがそもそも高いのではないかと思っていました。
以前お世話になった方に「お茶が嫌いって人は少ないから、そこにビジネスチャンスがあるんじゃない?」と言われた事がありました。答えは出ないままでしたが、ずっとその言葉が頭にありました。

要因⑤

カフェで提供している水出し緑茶

カフェで水出し緑茶を提供しています。ですが、お客さんに2煎目・3煎目と出すわけにもいかないので、1度抽出した茶葉は捨てています。まだ水を足せばお茶ができるので、これをずっと『もったいないなぁ』と思っていました。※現在もカフェの水出しは1煎目のみ提供しています

要因⑥

オープン前、コロナが思ったよりも長引きそうだと感じ、当時はカフェ+物販くらいしか考えてなかったので根本的なビジネスモデルからなんとかしないといけないなと思っていました。コロナによって変化したニューノーマルが完全に戻る事は無い、もしくは相当時間がかかるなと思い、そのため店内以外の売上をしっかり確保する必要があると思っていました。

書き出すと長くなってしまいましたが、こういった要因がありました。
これらを解決するキッカケとなるサービスとして『朝ボトル』を始めました。

メインターゲットはオフィスワーカー

『朝ボトル』は主にオフィスで働く人向けのサービスとして提供しています。お茶(特に水出し緑茶)はコーヒーに比べてカフェインが少ないため胃に優しく、また緑茶特有の旨味成分テアニンが穏やかな集中力の持続に役立ちます。
普段何気なく飲んでいるオフィスのコーヒーを伊勢茶に変えてもらいたいなと思いました。

日常的に使えて手間がない

価格を300円に抑え、1杯300mlあたり100円とする事で手軽に買ってもらいやすくしました。また水を追加するだけで2杯目、3杯目と飲めるので誰でも気軽に本格的な伊勢茶を楽しんでいただけます。また飲んだ後は帰りにそのまま返却するだけなので洗う必要もありません。

どうせなら『朝ボトル』でいいかな

『どうせなら朝ボトルにしようかな』と思ってもらえればと思っています。「お茶好きな人」を増やすよりも、朝ボトルは『お茶でもいい人』を増やす事を目的としています。日常で何気なく飲んでいるものをたまには緑茶にしてみようかな、朝の飲み物は緑茶にしてみようかなと思ってもらえたら嬉しいです。

SDG's

朝ボトルは「エコフレンドリーな商品」としてイタリアのデザイン雑誌『design boom』で紹介されました。
当初はそこまでエコを強く意識していなかったので、嬉しかったです。やはり農家に生まれたからか、個人的には「“せっかくなら”エコな方が良い」という考えです。田舎で育ったからか、自然に対してなんとなく親近感があります。ソーラーはエコなのかもしれませんが、ソーラーがどんどん増えて景観が壊れていくのは寂しく思います。さらにきっと20年後には誰も責任を取らずにソーラーはそのまま放置されるんだろうなと勝手に思っています。
自然の中で育ちましたが、なんでも自然がいいという派でもありません。スマホも使うしエアコンも使うし、無農薬以外の野菜も普通に食べるし(というか無農薬を食べるほうが少ないかも)、エコに全振りというわけではなく、結果としてエコになるならそれが一番良いと思っています。

朝ボトルの売上本数の増減

季節要因

やはり水出し緑茶なので寒くなると売上本数は減ります。「いやお湯にすればいいじゃん」という話に思うかもしれませんが、お湯で抽出するとカテキンが出すぎて1時間とかで変色(酸化)してきちゃうんですね。なので冬場の水分補給として冬場も水出しで提供しています。冬になってから「やっぱ寒いので…」とマグカップ用のティーバッグを買いに来てくださるお客さんもいます。すいません、これは改良の余地があるなぁと感じています。ステンレスにすればある程度解決できるのですが、そうすると中の綺麗なお茶の色が見えなくなるのでそれも寂しいなぁと思ったり。あとはお湯で抽出すると抽出しすぎてしまうので、めちゃくちゃ濃い1煎目になって3煎出ないんですね。

お客さんの選択肢

当初からお客さんには以下の選択肢があるため、長期的に見た場合には売上本数は減るor変化ないと考えており、大きく増加する事は想定していませんでした。結論からお伝えしますと、これは想定通り「大きいな変化はない」という結果になっています。
ご利用いただいくお客さんはその後4つのパターンに分かれます。
1. 引き続き購入して下さるお客さん
2. 購入を辞めるお客さん
3. ボトル本体をご購入&茶葉のみを定期的に購入に来て下さるお客さん
4. ティーバッグに移行されるお客さん

どんな形にせよお茶を飲むようになっていただく事は本当にありがたいです。ちなみに個人的にはティーバッグも全然おすすめで、「ティーバッグは美味しくない」という方もいますが、急須と同じ茶葉を使えば当然同じ味になります。茶葉とティーバッグの違いとしては、【誰が淹れても美味しくできるのがティーバッグ】、【(温度などによって味を変化させられるので)融通がきくのが急須】というイメージかなと思います。

これからのこと(2022.02.04現在)

現在は『ストリングスホテル 名古屋』さんとのコラボの話が進んでいます。先日決まったばかりなので詳細はこれから詰めていくところなのですが、良いご縁になるといいなと思っています。

ホテルの部屋に置いてあるペットボトルに朝ボトルを加えてもらうだけで贅沢な時間になるかなと思ったりします。水出し緑茶はカフェインが少ないので(確か5~6時間茶葉をつけっぱなしにしても通常の1/3とかだった記憶)、寝る前に飲んでも安心です。あまり適当な事は言えませんが、水出しでも抽出される緑茶独自の『テアニン』という成分が睡眠を改善するという報告もあります(webで調べるとけっこう研究が出てきます)。
またワークショップの話も進みそうで嬉しいです。『ストリングスホテル 名古屋』さんでは夏休みなどのお子様向けワークショップをされているそうなのですが、mirumeもお子様向けのワークショップを行っているので、それをストリングスホテルさんでもできば〜との話になりました。

これからも少しずつ朝ボトルを広めていければと思います。当たり前のようにお茶が日常の飲み物として選択肢に入るようになればいいなぁと思ったりします。

最後に

朝ボトルを始めたおかげで色んなご縁がありました。
ご近所の方が毎日挨拶をしてくれたり、色んな方に出会えたり、メディアにも出していただいたり。
このご縁を大切にしながらこれからも続けていきたいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?