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ワンオペ男性育休を6ヶ月取得。産後鬱になりそうな気持ちも、社会の生きづらさも、実感できた。

「女性は10ヶ月かけて母になるから、男性は追いつけない」「男性は育児の役に立たない」――こうした呪いをはねのけて、当たり前にパートナーと育児をしている男性は、たしかに増えてきています。
では、そんな男性たちは、出産・育児にあたってどんなインプットや事前準備をしたのでしょうか。

妊娠・出産・育児にまつわるリアルを、産まない男性側の視点で伝える連載。第一回は研究者の妻を持ち、自身もフルタイムで働きながらワンオペでの育休を取得したおすぎさんに、お話を伺いました。
(取材+文:菅原さくら)

おすぎ 4y👶&2y👶育休復帰フルタイム管理職ワーパパ
19年2月boy、20年12月boy、一子で0歳児半年ワンオペ育休。
デザイン経営場作り、意味のイノベーション、デザイン思考、立命館大学 デザイン科学研究C客員研究員、大師ONE博理事、場のデザイン。
元NPO二枚目の名刺共同代表。一社知識創造コンソ、サービス開発。
育児家事、地域、仕事などなど


希望をすりあわせた出産計画と、綿密な情報収集

――まずは、お二人について教えてください。夫婦共働きと伺っていますが、結婚前後はどのように働き、どんな生活をしていましたか?

私は東京の精密機器メーカーで営業やマーケティングをしつつ、パラレルキャリアの普及を目指すNPO法人「二枚目の名刺」で共同代表を務めていました。パフォーマンスさえ出していれば多様なチャレンジを許容してくれる上司だったので、社内の勉強会や商品開発、顧客課題に合わせたコンサル案件の受託などと奔走しつつ、平日の夜や土日にはNPO法人の仕事をする……という日々。睡眠時間は短いけれど、そのぶんいろんな名刺を使って、自分のやりたいことにチャレンジできていたと思います。

当時の妻は和歌山の大学で働く教員・研究者で、出会ってすぐに結婚。そのまま遠距離別居婚という形を取ったため、週末にお互いの拠点を行き来する生活でした。

――それぞれにやりがいのある仕事を持ち、自立した関係だったことが伝わってきます。それだけ忙しいなか、子どもについてはどう考えていましたか?

最初からほしいとは思っていました。僕は25歳くらいから「次に付き合う人とは結婚しよう」と考えていたし、「家族ができたらたくさん写真を撮ろう」と一眼レフを買っていたくらい。ただ、それは漠たる願望で、さほどリアリティはなかったように思います。

それでも31歳で妻と結婚してからは、自然と妊活をスタート。30歳を過ぎていたため、はじめからクリニックにかかり、体外受精が必要だと判明しました。病院にはできるだけ一緒に行っていましたが、遠距離婚ではなかなか予定を合わせきれず、妻が一人で頑張ってくれた部分もたくさんあります。とくに、採卵日に向けてホルモンバランスを整えるための注射を一週間強打ち続けるのは、妻だけ。自分のお腹にみずから注射してくれる妻の姿を、毎日テレビ電話で応援することしかできませんでした。

――おすぎさんたちは妊活から不妊治療をはじめるまで滞りなく進んだようですが、クリニックの受診を嫌がる男性は少なくないと聞きます……。「不妊の原因は女性にある」という思い込みや「自分が原因だったらプライドが傷つく」という不安があるようです。

そうなんですか? 僕はまったくなかったです。もちろん精子のテストをするときに「僕が原因だったらどうしよう」とドキドキはしたけれど、その不安は「クリニックに行かない」こととはつながりません。そんなの、目的に対する手段が逆になっちゃっていますよね……。

――そうした治療を経て、現実的に「子どもを持つこと」に向き合ったのは、どのタイミングですか?

治療が奏功して、無事に着床したときでしょうか。「本当に生まれるじゃん!」と、そこから本格的な準備をはじめました。

――離れて暮らしているところから出産、育児のスタートまでは、タスクが山積みですね。どんなアクションからはじめていきましたか?

妻に「仕事を続けたい」という希望があったため、彼女の意志を尊重できるように出産計画を立てました。まずは一緒に育児ができるよう、引っ越しを検討。妻はもともとの勤務先を離れなければならないため、少しでもスムーズに転職できるよう、環境を整える必要がありました。身体のダメージができるだけ少なくて済むように無痛の計画分娩を選び、妻は育休を取らず復帰することを決め……僕は育休取得の準備を進めていましたね。

――産後の生活について希望をきっちりすり合わせる。そういうことができる関係性は、そもそもどうやってつくられたものなのでしょうか?

付き合いはじめる前に、キャリアや子どもに対する価値観をたっぷり議論する機会があったんです。最初はお互いを恋愛対象として見ていない時期だったから、逆に自分の気持ちを正直に伝え合えたんだと思います。それこそお酒を飲みながら、7時間くらい赤裸々に(笑)。それでお互いに「どうやら価値観が合うね」と気づき、感情的な部分もそうだけどロジカルな議論もできる、理想なタイプだなと感じたから、付き合う時点で結婚を前提としていました。だから「コミュニケーションを取る」という姿勢は、そもそも関係性をつくっていく前提にあったんですよね。

――とても大切なことだと思います。そのほか、準備したことはありますか?

なにぶんはじめてのことだからわりと不安が大きく、子育ての情報収集はたくさんしていました。子どもが生まれるとどんなことが起きるのか、何が必要になるのか――子どもの発達に関するアカデミックな本から、子育ての愚痴をつづったコミックエッセイまで、いろんな本を40冊弱くらい読みましたね。「こんな幸せやつらさがあるんだな」「こういうエビデンスがあるのか」などをざっくりとつかみ、一般的な父親の家事育児の関与度を見て、自分はそうなるまいと気を引き締めたように思います。

おすぎさんが当時読んでいた本の一部はこちら📚
二人は同時に親になる(猿江商會)
・ワンオペ育児(毎日新聞出版)
 ※「オススメ書籍とnote」の章で、他書籍も紹介しています。

育児レベルをそろえて「とりあえずママ」を回避

――パートナーの妊娠中は、どんなことを心がけていましたか?

男性ができることは、妊婦を守ることとサポートです。妊婦は身体もホルモンバランスも変わるので、その変化に徹底して合わせながら、とにかく無理はさせないように。ホルモンの関係でメンタルも不安定になりやすいため、相手の話を傾聴して、気持ちに寄り添うよう努めました。男性の僕は本人の苦痛をそのまま理解することはできないけれど、以前から学んでいたコーチングの手法なども取り入れて、共感を大切にしていたように思います。

とはいえ、妻も気持ちや状態をよく言語化してくれたので、そこまで大きなトラブルはありませんでした。産前は週末しか会えない状態だったから、その数日だけセルフコントロールを頑張ってくれていたんだと思います。

――無事に出産を迎え、産後はどのように過ごしましたか?

妻は出産という「6週間くらいかけないと日常生活を送れないくらいに母体が傷つくイベント」を経ているので、床上げ3週間は、食事とトイレ、シャワー以外は何もしなくて済むような環境をつくりました。ただ、妻は横になりながら仕事をしていましたが(笑)。産褥期が明けたら妻はすぐに復帰して、僕はバトンタッチで6ヶ月のワンオペ育休を取りました。
あと、里帰りはしないでもらいましたね。里帰りをすると夫婦で育児のスタート地点が変わり、育児レベルに差が出てしまいそうだから。お互い初心者なのに、相手が2ヶ月先に育児をはじめていたら「このやり方が正しい」「そっちに合わせなくちゃ」みたいな事態が起きると思ったんです。

――ルールが決まっている場に後から入るのがしんどいというのは、仕事などでもあるあるですよね。二人でゼロから育児をつくっていくスタイルは、のちのち効いてくる気がします。

授乳がミルクだったのも、分担によかったと思います。母乳だと授乳が女性のタスクになってしまうため、睡眠不足も起きるし、飲んだ量がわからないぶん泣いたときに「お腹がすいたのか?」「じゃあ、とりあえずママ!」ってなりやすくなるかなと。そうすると、やっぱり男性の“育児しづらさ”が生じてきそうな気がします。

――そうかもしれません。それにしても、おすぎさんのご家庭ほど分担がなされていると、産後クライシスなどは起きにくそうですね。

我が家では、僕のほうにメンタルの苦しい時期がありました。わりとちゃんと寝てくれる子だったため、4ヶ月くらいからは5時間ほどまとめて眠れるようにはなったのですが、いかんせんわからないことが多すぎて。何かあればすぐに「この症状はなんだ!?」と調べ、病院に連れて行き、不安なまま子どもと一人で過ごす……みたいなことの積み重ねがきつかったんだと思います。

産後すぐに転職した妻が夜間休日も問わず仕事をしていたため、ワンオペの時間も長かったんですよね。話し合いを持ちかけても、キャッチアップしなければいけないことが多い妻にその余裕はない。出産のためにキャリアチェンジしてくれて、まだ産後の身体が完全に回復したわけでもないのに頑張っている妻を応援したい気持ちはありつつ、自分自身はモヤモヤを抱えたまま過ごしていたんです。

そのうち、いよいよ不在がちな妻に対して「育休は育児のための休業なんだから、業務時間内の育児は僕の専任でもいいけど、業務時間ではない朝や業務時間後は、きみも家事育児はやるべきでしょ?」「いいかげん休んでくれない?」と、私の溜まった不満が爆発しました。結果として彼女は3週間の夏休みを取ってくれて、家族で旅行に。そののち自分も復職したことで、改めて協力体制を見直し、関係を改善することができました。

よく聞く「育休ママ/バリキャリワーママの悩み」に共感する

――育休中の女性は、社会とのつながりが薄くなることに不安を抱えるケースが少なくありませんが、おすぎさんはどうでしたか?

その気持ちもよく理解できました。僕の場合は事前に本を読んで「家事育児だけしていると社会との断絶が起こる」「親としての役割しかなくなる!」「そこから鬱になるかも」ということを学んでいたので、あえて地域団体の立ち上げに関わるなど、社会との接点を持つようにしていたんです。それでも夜は飲みに行けないし、土日の遊びや勉強会にも顔を出しづらいから、孤立していく空気を痛感しました。あれはしんどいですよね……。

いま振り返れば、ずっと子どもを見ていなくちゃいけない状況がしんどかったのかもしれません。メンタルって、ポートフォリオでできているんですよね。僕の幸せのポートフォリオを構成する要素にはもはや家族が欠かせないし、いまは思いを持って取り組む仕事や本業外、地域などの取り組みもそれぞれ存在しています。しかし、当時は子どもと家庭ばかりだったから。どんどん外とつながって、個人としていろんな側面を持たないと、子育て自体が苦しくなってくるなと思います。

――育休を終えてからはいかがでしたか? 仕事と子育ての両立という、また別の困難がはじまったのではと思います。

家事育児の時間には追われていますが、働いているほうが精神衛生にはずっといいので、家族との関係は良好です。ただ、子どもが生まれる前に働いていた会社は、復帰後半年で退職しました。もともと当たり前に深夜まで働くような生活で、そのときは面白い仕事がたくさんできていたけれど、勤務時間が日中だけに限定されるとオペレーショナルな業務がメインだとうまく社会に価値が出せないと感じたからです。そこで、事業開発支援系のフルリモート管理職に転職。いまは仕事も充実しているし、保育園の送りや料理は私がやることが多いですが、掃除や洗濯は妻が多いかな。お互い家事育児のすべてをできる状態ですが、日常的には得意なタスクを率先してやることで、バランスよく分担できています。お互い月に数日は出張があるので、そのときはそれぞれにワンオペです。

――いま、子育てと仕事や家族の関係において、なにか課題は感じていますか?

夜や土日が使えず、いつも保育園のお迎えに行けるくらいの距離にいなくちゃいけない現状は、仕事で新しいチャレンジをしたりつながりを広げていったりすることの障害にはなっていますね。いわゆる旧来型の男性社会が引き続き存在しているなかで、そういう働き方の人と比べると、パフォーマンスが出しづらいなと思いつつ、そのなかでどうバランスを取って新しいことに挑戦するか、妻と協力していくかは、やはり大きな課題です。周りのバリキャリワーママさんたちと同じように悩んでいます。

いまの社会では、働く女性が生きづらいのと同じように、家事育児にコミットする男性もなかなか生きづらいもの。だけど、それをお互いに理解して共感しあいながら、家族の幸せのためにともに頑張っていけるパートナーがいることには、とても救われています。

――最後に一つお伺いしたいのですが……おすぎさんは、どうしてそこまで家事育児に主体性が持てたと思いますか?

だって、そもそも結婚したときから妻とはイーブンの関係性だし、出産や育児という大きな変化に際して、僕が動かないと妻が死んでしまうと思ったから。……なにより妻を孤立させたくないし、悲しませたくないし、妻に嫌われたくなかったんです。愛すると決めた女性が頑張ってくれているのに、放置するなんてできないじゃないですか。主体性を持てたのは、結局そういうシンプルな理由だと思います。

【参考】オススメ書籍とnote

子育ての情報収集をする際に、おすぎさんが読んでいたものを教えていただきました📚




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