見出し画像

『ミッドサマー』悩ましい点の話


もう中毒かな?というくらいこの映画のことを考えている。考察ブログも何回も読んだ。お世話になっていますって菓子折り送りたい記事もある。なんてことだ、今週末にもまた行きたいと思っている。

今回はネタバレありで、個人てきに疑問が残っているところ、「こうやないの?」と思うところをババっと書く。できれば映画観賞後に「こういう考えもあるよね」くらいの気持ちで読んでほしい。ルーン文字の話や絵の話は、他に詳しい記事がたくさんあったため今回は触れない。というか知識も無いので語れない。

3月20日
ディレクターズカット版を見たので追記した。ストーリーには大きく影響しない(当たり前)けど、人物背景や仕草から深みが出たので、観てよかった。これで2,000円は安い。



!SPOILER!!SPOILER!!SPOILER!!




○拍手ができない○

ホルガの人は、拍手するべきシーン(ダニーがメイクイーンに決まったとき等)に笑顔で手をひらひらと揺らす。きらきら星の振り付けのような動きで、「そっか〜ひらひらして綺麗だね〜」とニコニコ鑑賞していた。のだが、これはもしかして、ホルガの人々は拍手が「できない」のではないだろうか。


ダニーが女王になった際の食卓で、遅れて参加したクリスチャンがわけもわからずに隣の老人に「なにが起こっているんですか」と尋ねるシーン。老人はなにも言わずにクリスチャンの目の前で手を大きく叩く。すると、おそらく直前に飲んだ液体の影響で、クリスチャンの視界や聴覚がワンワンと揺れてしまう。
ホルガの人々、というよりもコミュニティの中心にいる人は、何かを始める時や儀式の区切りで大きく手を叩いている。これがただ注目を集めるためや、気合を入れるためならそれでいい。
この村の人は日常的にドラック(ハーブ)を摂取している。集団で拍手なんてしたら、そのクラップ音に反応してみんなの感覚もグワングワンになってしまうのかもしれない。だから、滅多に手を叩くようなことはせず、おめでたいことがあったら手をひらひら〜とさせるのかも。

○ペレはどこまで純粋か○

よく「全ての元凶」と言われるペレ。ホルガ出身の青年で、ダニー達を夏至祭に誘う。結局、ほとんど全員が死んでしまうのだが、はたしてペレはどこまで「悪意を持って」彼らを招いたのだろうか。

私は、ペレは100%善意で行動していると考えている。

ダニーが旅行に参加することを男子達に告げる場面。ペレはダニーと話す際、ずっとスケッチしていた机の絵をさっと隠すように仕舞う。「何を描いていたの?」「ただの机だよ」

しかし、ダニーとの会話が夏至祭に触れた瞬間、ペレはコミュニティの説明を生き生きと語る。さらに、「おいで、見せてあげる」と過去の夏至祭の写真をダニーに見せ、「君が来てくれるなら本当に嬉しい」とまで言う。
私なら、高確率でドラックがキマっている祭の写真なんか、今から来る人、来てほしい人には絶対見せない。見せたとしても遠目の景色くらい。なにも問題が無くても、なにか違和感を抱かれて「やっぱり行かない」って言われたら、そちらの方が困るのだ。それを嬉しそうに見せてしまうのが、ペレが後に語る「僕は僕の故郷を本当に誇りに思っている」に表れているなぁと思う。

また、ペレがダニーに「クリスチャンはいい友達だけど、君は彼に本当に守られていると感じる?」と聞く質問。映画のはじめで、ダニーの友達も同じような質問をしている。彼はあなたを頼る?支え合えている?信頼し合えている?
同じような質問でも、オープニングでは非通知の着信が入りダニーが質問に答えることはない。この際、ダニーは話を聞きながら妹にメールを打っているので、観客もこの友人の質問をどこか聞き流してしまう。
対してペレの質問はなぜこんなに刺さるのか。言葉の通じないコミュニティ、一緒に来たグループは(彼氏も含めて)関係が微妙、ホルガのショッキングな儀式も見て、ダニーの感情はもうグラグラなのだ。そもそもダニーは、人前で泣かないよう、トイレの個室で声を殺して涙を流すような人間だ。自分の弱い部分は外に見せないように、気をつけて生きている。そんな彼女が、非日常の中で、防御力が下がっている時に、あんなにまっすぐ目を見ながら聞くから、ペレの言葉はめちゃめちゃ刺さるのだろう。弱いところを無理矢理こじ開けて洗脳しているようにも聞こえるが、たぶんこれもペレは100%善意で言ってる。

だって、映画のはじめから終わりまで、ペレに一欠片も悪意が無いから、「ペレは人を見る目がある」し、そんな信仰の深い彼が「生贄と種と、女王まで連れてきた」からペレはホルガであんなに尊敬されるようになったんでしょう?信仰には100%の純粋が必要。悪意が見えないから、みんな招待についていっちゃったんだね。
ちなみに、序盤の男子4人で飲んでいるシーン。「夏にはスウェーデン女を抱ける」とマークを煽るペレ。これも嘘じゃないからね。

○アッテストゥパンの老人の感情○

映画の見所のひとつ、アッテストゥパン!72歳になったら輪廻に還るために崖から飛ぶ!ただそれだけ!
今回は2人の老人が対象。直前には2人を中心として食卓が囲まれ、食事の最後には2人が何か唱えて飲み物を飲み干す。厳かに儀式が進んでいく。

おばあちゃんの方、最初から涙目なんやけど大丈夫???

なんか最後まで泣きそうやったけど大丈夫???

食卓から離れる時に見つめあってた男性、息子か???

この儀式、崖の上で手に傷をつけるときもナイフ持たせてもらえないんだよね。儀式として「そういうもの」としてしまえばいいけど、ナイフ持って「やっぱり怖い」と暴れたりするのを防いでるのかなとか思ってしまう。あの表情を見てしまうと。

○サイモンとコニーはなぜ殺されたか○

これは初回映画を見終わってからずっと考えていたこと。マーク(立ちション事件)、ジョシュ(盗撮事件)、クリスチャン(言わずもがな)は、殺されるに相応しいそれなりの理由があった。だから「かわいそうだけど因果応報だよね」という気持ちも、まあある。
しかし、サイモンとコニーは本当にいつの間にか死んでてびっくりした。いや嫌な予感はしていたけどもうちょっと描写があってもいいじゃないかと。なぜ彼らはこんなことになったのか、なにが不味かったのか、ずっと考えていた。

そして気づいた。生贄に理由なんかいらない。

彼らはホイホイとホルガに入った時点から、こうなる運命だったのだ。コニーはメイクイーンになることができたかもしれないけれど、結局怒鳴りながら帰ろうとしたわけだし。ディレクターズカットでは何か描写があるのかな。
むしろ、マーク、ジョジュ、クリスチャンがワケありすぎて、「こんな不純物を生贄として捧げて大丈夫ですか?」と心配してしまうくらい。

○学生としてのクリスチャンとジョシュ○

クリスチャンは恋人としてクズとよく聞く。もちろんそうなんだけど、パンフレットでは監督が「あくまでダニーから見た一面」と発言している。
では大学院生としてはどうか。くそです。
ディレクターズカット版では、クリスチャンがジョシュに、「修士論文のテーマをホルガにすると決めた」と伝える場面も長く描かれている(ここカットされてたんや……)
そこで、クリスチャンが「電子図書館の使い方も最近まで知らなかった大学院生」だったことがわかる。「なんで大学院にいる?」とまでジョシュに言わせるなよ……ジョシュの「お前がなにに興味を持っても構わない。ただ俺の研究を利用して近道をするのは許さない」という言葉がとても好き。ジョシュがどれだけ真剣に研究を進めてきたかが垣間見える言葉だと思う。通常盤では、この後ルビラターの写真を撮ってしまうのを「クリスチャンよりも良い研究のため」という焦りからかな?と思っていたけれど、「本気で興味がある分野の、ここでしか知れない資料が見たい」という知的好奇心が強すぎた結果なのかなと感じ方が変わった。

あと、クリスチャンはよく「I decided it today.(今日決めたんだ)」と言う。ダニーを夏至祭に誘ったのもめちゃめちゃその場の思いつきで苦し紛れだったし、悪い意味で「行き当たりばったり」な人なんだなという印象。マヤを抱いてほしいと言われたときも、「学術的側面からも、貴重な風習が垣間見えますよ」と言われた際に、「参加せずに垣間見ることはできませんか」と言っていた。ジョシュやったら我先にと参加するだろうに、この時は既に土の中なので残念。

○ダニーとクリスチャンの喧嘩○

通常盤では丸々カットされていた、水の儀式後の2人の喧嘩シーン(YouTubeでも見れます)。ここが後々、ダニーがクリスチャンを最後の生贄に選んだ分岐点だったのかなと思った。ずっと流れていた「すでに終わりが見えている関係」が言葉に、態度になって明らかにされた場面だった。てか花貰ったら素直に喜べや。

○ウラお姉さんが最高○

みんな知ってるこの人。めっちゃ好き。

画像3

こんなこと言ってないけどな。
よくよく見ると食事のときには上座近くにいつも座っているお姉さん。英語も話せるし、ダンスバトルのときにはクリスチャンにお水(薬入り)を渡しているし、村のお世話役、みんなのお姉さん的な人なのかな。
マヤがクリスチャンを誘うところ(メイクイーンが決まった直後の食卓のシーン)で、マヤの隣で「あらあら」みたいな顔してるのめちゃめちゃキュートなのでチェックしてほしい。私はあそこで惚れました。こんなお姉さんに相談のってほしい。
メイクイーンの馬車の儀式にも、そのあとダニーと一緒に泣くシーンにもちゃんといる。というか序盤からめちゃくちゃいる。好き。


画像2

ちなみに、私はペレが大好き。あんな犬みたいな人懐こい雰囲気で、あんな静かな語りで、あんな優しくされたら落ちちゃうでしょ。誕生日にも、特別な瞬間にもスケッチして残してくれるんやで。最高じゃん。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?