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小噺 酔っ払いの戯言

世の中は酒で出来ている。
否、酒によって人間という理性的な生き物が本来理性的でない、
ということを証明する、
いわばこの数億年という歴史で紡がれて来たこと全てを理性の産物でしかないことを物語るのに事足りている。

人間というその言葉からもってしても、
自分とは異なる他の有機体の存在なしにしてはその実在する確認し得ない、
ということを鑑みた時に、殊更、理性、というものは人間ではない。

自己、という実体を超えた存在そのものであるということを自覚するために、
人は酒を飲む。

そして語る。自分という自己は如何に確固たる信念を持ち、今日迄至るのかと。
そしてその行為が理性的である事以外の何者でもないことを無意識に自覚しつつ、それでも尚語る。

そしてまた、酒を飲む。
その繰り返しである。

そうしているうちに理性が本能と同化し、気づけば本能のまま、
先程まで理性と形容していた物が言語、という画一的な記号を介して本能に替わり、
既に理性に食い潰されてしまった中のほんの少しの、
いちばん奥の本来の人間という生物が目を覚まし、
本当の意味で生物と化して生きることができる。それが酒だ。

夜の灯りがが少ない。節約。
世の中の愛は、お互いを見ていない。
悲しみに暮れているその日さえ、幸せに見える。

あなたの今日の信念は何によってもたらされ、
それはあなたの産物ですか?
それはあなたの信念ですか?
それは誰の信念ですか?

それは本当にあなたですか?
それはあなたによって作られたあなたですか。

その問いを見つめ直すために、欲せざるを得ない、
人体を構成する基幹にほんの少しの夢を見るために、毒を盛る。

それが酒だ。

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