中小企業の事業承継~創業一家の呪い~

中小企業白書を見ると日本の経営者、特に中小企業においては社長の年齢はここ20年でそのまま高齢化し、現状60代後半になります。

つまり、「まだまだ現役、私がいるから大丈夫!」とか言ってるうちにあっというまに70代に、ということです。

日本の中小企業の多くは創業者一家が株を持ち、役員を構成しています。そして、高齢化するなかで親族のなかかから後継者になりそうな人を探し、入社させ、数年働いた後に、役員待遇、その後社長に就任、という流れがメジャーなのではないでしょうか?

中小企業の多くは非公開会社のため、市場で議決権株式は流通しません。

そのため、社外の人間を入れる、というインセンティブが働かない、むしろ、そうさせないことを目的にしています。


ここでの問題点は2代目の知識・経験・技術という専門性に関する問題です。

画像1

創業者は事業を始めてその専門性、技術、知識を深めてきました。

しかし、高度経済成長期を生きてきた高齢世代の経営者は、取引先も比較的安定し、営業にそれほど苦労しなかったことや、財務・会計もここ20年で大きな変化を遂げておりますが、ついていけていない。また、IT分野に至ってはなにをかいわんや、といったところです。

逆に、他所で働いていたのに、創業社長に誘われて若社長として入社した2代目は、もちろん知識や専門性、技術ではほぼ素人です。

逆に、40代くらいなら長い不況を生きてきているので、営業に関してはシビアに考えられるし、財務・会計もある程度は知識があると思います。

ITも、エクセルを使いこなすくらいは余裕でしょう。

まったくかみ合っていません。


世代交代で問題となるのが、従業員の心理的問題です。

大企業と中小企業の経営者の違いとはなんでしょうか?

もうタイトルにも出ていますが、大企業の経営者は経営課題の多くが組織変更や財務的な問題に集約されることから、雇われ経営者が多くなりますが、中小企業の経営は血族が構成しています。おそらく50人くらいまでの会社であれば、みんな顔みしりで事務員は社長の姪、総務課長は社長の甥、常務や専務に弟や従妹、なんて構成はよくあるのではないでしょうか?

よくも悪くも、中小企業の経営者は大黒柱であり、父権的な存在です。

画像2

大企業の場合、人的資源はある程度充実するため、新しい経営者になって気に入らないから会社を辞める、という人がいても問題ありません。

しかし、中小企業の場合、人的資源が乏しい場合が多く、結果として業務が属人的になり、「この人に辞められたら困る」というケースが多くあります。

「若社長は現場のことを全然知らないし、知ろうともしない。こんな人の会社ではやっていけない」というのが一定数増えると、集団離職、なんてことも起こりかねません。

コロナ禍でこんなニュースがあったことは記憶に新しいと思います。

とくに、日本ではこの30年、不良債権の回収と長い不景気のなかで若手労働者が減少し、かつその不景気のなかで若い世代の賃金が大幅に減少したことで人口減少に加速をかけてしまったことで、労働力が不足しています。

ほんの10年前までは労働市場は買い手有利で「辞めたいならやめろ、代わりはいくらでもいる」というブラックな考えがまかり通っていました。

今、「働き方改革」が言われているのは、その時代の反省からきているものですね。

なにより、人手が不足しているのが大きな要因です。


このような状況で、世代交代に失敗した場合、社員の方から「他に行くところなんていくらでもある、社長が気に入らないからやめる」なんてことになったら、人がいなくなって事業継続が不可能に、、、なんてことも十分におこりかねません。


では、事業承継はどのように行うのが理想でしょうか?

基本的には「禅譲」ではないかと思っています。

つまり、まずは社内で生え抜きを見つける。

能力のある人のうち、右手、左手ポジションを、50代、30代から見つけて、社内で相当の待遇をし、かつ本人にも努力することを促す。

それで見込みがあれば、株式を譲る、というものです。

基本、中小企業の場合、特別決議も考慮して議決権の3分の2は社長が保有すべきです。


専門性や技術がないために、他所から親族を引き抜いてきて、とりあえず総務や経理で役員待遇にするというのは、あまり得策ではありません。

法務や会計分野は非常に複雑化しているうえに、他業種からみると「入力するだけでなにがそんなに忙しいの?」と思われてしまいます。そのため、古株の社員からすれば、「パートさんの仕事で楽して高給とりなんて、ただでさえ自分たちの仕事の苦労も知らないのに」となりかねません。

中小企業こそ、まずは現場で修行させる。

現場の状況をきっちりとわからせる必要があります。


法務・会計分野に関して、中小企業は非常に危うい状況にあります。

特に法令の改正や会計基準、税法や通達に関して、それをきちんと理解して対応できるレベルの人はほぼいない状況です。

理由は単純で、経理を「パートさんの仕事」だと思っているからです。

それくらい簡単な仕事だという認識しかないからです。

これは非常にまずいことです。


これからの中小企業の事業承継にはM&Aは必須だと思いますが、このような会計的な不備や法令等の無知はM&Aにとって大きな足かせになります。

また、M&Aの敷居が高いこと、それ以前に、中小企業の財務情報があまりにないこと、そもそも財務情報が、上述のような理由で信頼性がないことで、まずもってとっかかりがありません。


中小の情報を集約し、M&Aマッチングを行える、証券取引所のような場所が必要ではないでしょうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?