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絶景温泉200#2【三朝温泉・河原風呂】

新しくスタートした連載「絶景温泉200」。著書『絶景温泉100』(幻冬舎)で取り上げた温泉に加えて、さらに100の絶景温泉を順次紹介していこうという企画である。

記念すべき第2回は、三朝温泉の河原風呂(鳥取県)

川の畔に湯煙をあげる野天風呂が名物の温泉街といえば、下呂温泉「噴泉池」、長湯温泉「ガニ湯」、満願寺温泉「共同浴場」、湯原温泉「砂湯」などが有名である。

これらに共通しているのは、混浴で、なおかつ周囲から入浴する姿が丸見えであること。年々モラルが厳しくなる世の中にあって、今なお公衆の面前で素っ裸になっても許される‶聖域”は、このような野天風呂くらいだろう。

古き良き時代の温泉地の原風景ともいえるが、時代の流れに逆らうのは容易ではない。2021年、下呂温泉の「噴泉池」は利用者のマナー違反などが原因で「足湯専用」となってしまった。さびしいかぎりである。

鳥取県の名湯・三朝温泉にある「河原風呂」も、温泉街の河原に湧く混浴野天風呂だ。「三たび朝を迎えると元気になる」といわれる三朝温泉は、三朝川沿いに20数軒の旅館が並ぶ山陰有数の温泉地である。

温泉街を一望できる三朝橋に立つと、橋のたもとに湯船が見える。「河原風呂」は温泉街のシンボル的存在で、見物客も絶えない。最大の特徴は、その開放感だろう。橋の上や旅館の客室から丸見えだ。

三朝①B

そんな状況で昼間から素っ裸になるのは、若干の背徳感はあるが、ひとたび湯船に浸かると、包み込むような温泉のぬくもりに、恥ずかしさも吹っ飛んでしまう。

たまたま一緒になった常連の男性は、隣町から毎日通っているという。「僕もだけど、家の風呂代わりに通っている人は多い。1日に何度も入りにくる常連もいるよ」と教えてくれた。

川のせせらぎがBGMとなり、天を見上げると、どこまでも広がる青空。毎日通いたくなる気持ちがわかる。山や海の絶景温泉と違って息を吞むような景観ではないが、川の畔の湯船の中から、まわりの旅館や通行人を見る開放感は新鮮だ。

野天の湯船にしては清潔感があるのも特徴だ。一般に日当たりがよいと藻類が繁殖して湯底がぬるぬるになりがちだが、河原風呂はそういう不快感がない。先の常連の男性いわく、「1日おきに観光協会の職員が湯を抜いて掃除してくれているよ」。どうりで快適なはずである。

「河原風呂」も昨今のモラルやマナーの問題とは無縁ではないはずだ。だが私の知る限り、この手の野天風呂にしては秩序が保たれているほうだと感じる。ロケーションに魅せられて入浴する観光客がいる一方で、常連客が毎日のように通う。夜には女性も入浴しに来るという。生活に根差した湯だから、今も昔のまま残っているのだろう。

河原風呂のような温泉の原風景もまた、他所で目にすることができないという意味では「絶景」といえるのではないだろうか。

なお、温泉街には「株湯」「たまりの湯」といった男女別の公衆浴場もある。源泉かけ流しのすばらしい湯を落ち着いて楽しみたいなら、こちらもおすすめだ。

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