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FACE THE SUNをよむ

SEVENTEEN正規4集リパッケージアルバム「SECTOR 17」がリリースされて、FACE THE SUNプロジェクトが一応の完結をみたので、ここらで一度自分なりにプロジェクト全体の解釈をまとめてみようと思う。

最初にことわっておくが、本記事の内容はあくまでも一個人の「解釈」であり「考察」ではない。
制作側が意図して作っているとは思わないでほしい。むしろ、「たまたまそうなっている」ことを論じるほうが断然私の好みだ。よくわからないという人は「テクスト論」でググってみてほしい。

はじめに

「FACE THE SUN」と「SECTOR 17」で構成されたプロジェクトは、みなさんご存じの通りep.0〜ep.6の物語形式だ。
 ・ep.0 Darl+ing
 (Trailer : 13 Inner Shadows)
 ・ep.1 Control
 ・ep.2 Shadow
 ・ep.3 Ray
 ・ep.4 Path
 ・ep.5 Pioneer(HOT)
 ・ep.6 _WORLD(SECTOR 17)

物語にするのはハイブの好みだな〜と思う。BTSの多くのMVのストーリーが繋がっているのはあまりにも有名な話だ。

ただ、BTSのMV考察のように、仕掛けられた小ネタを指摘していくのは私の目的ではない。もっと大枠で、構造をざっくり捉えてみようと思う。

それから、TrailerからSECTOR 17まで各インスタのストーリーで投稿された短い文章も、今回は参照しない。なぜなら私は韓国語が読めないからだ。和訳を探すのもちょっと面倒くさい。怠惰で申し訳ない。

FACE THE SUNは錬金術である

FTSプロジェクト全体を見る前に、まずアルバム「FACE THE SUN」から読んでいこう。

結論から言うと、「FACE THE SUN」ep.1〜ep.5は錬金術になぞらえてある。

冒頭で「解釈」とことわったが、あの神話や心理学モリモリのBTS作品を作ったビッヒもといハイブなのだから、正直ここは意図して狙ったんじゃないかなと思っている。

以下、私の錬金術かじり知識は大学のオカルト芸術論の講義で学んだものだ。うろ覚え箇所も多々あるのでご容赦されたい。

錬金術は、希少性の低い金属(卑金属)から希少性の高い金属(貴金属。主に金)を作ること。
オカルト論で紹介されるくらいのファンタジー科学ではあるが、古代より人は大真面目に錬金に挑み、副産物として数々の科学を発展させてきた。

そんな錬金術、芸術作品のモチーフとして使われることも多く、定着している象徴がいくつかある。

錬金術の過程は、色を用いて表される。
  卑金属=黒
 →熱する=赤
 →貴金属=白
という3段階だ。

ここでFACE THE SUN 5形態のイメージカラーを思い出してほしい。
ep.1は黒、ep.5は白。ep.3はオレンジ色だが、炎のイメージは火の赤とほぼ同義ととらえていいだろう。
ep.1〜ep.5の流れで、錬金術の過程をそのまま表している。

また、錬金術の文脈において「太陽」は「金」の象徴である。
これ以上説明することは何もあるまい。

ちなみにep.1のモチーフとなっている「墓」は、錬金術の触媒となる賢者の石をつくるための装置「哲学の卵」だそう。
言葉で説明するのは難しそうなのでググってみてほしい。

韓国特有のストーリー展開

ep.0+Trailer+ep.1〜ep.5のストーリーに関して言えば、韓国特有の「恨」の文化が色濃く出ている。

「恨」と言っても、日本語でいう恨みのことではない。韓国特有の概念なので日本語で説明するのはたいへん難しいが、「完全な形を希求する心」くらいに思えばいいのかな……私も正直よくわかっていない。日本人でいう「和」的なポジションだそうだ。

ちなみに「恨」は「ハン」と読む。みなさんおなじみハナ、ドゥル、セッのハナと語源的に繋がりがあり、「韓(ハン)」とも繋がっている。
韓国語で「ハン」は「ひとつ(one)」のイメージである。

(脱線するが、我が推し・バーノンの本名ハンソル(韓率)の意味もこれでわかった。生まれた日に雷が落ちたことが由来だそうだが、大いなるひとつの大空(韓)に一直線に走る稲妻(率)を表している(と思われる)。かっこいい〜!!!)

「恨」については、金慶珠さんの著書『恨の国・韓国 なぜ、日韓は噛み合わないのか』(祥伝社新書)で学んだ。

ここでは「恨」そのものよりも、「恨」にもとづいたパンソリの人気演目「春香伝」のストーリーで理解してみてほしい。
ざっくり言えば、身分差のある男女が恋に落ち、一時は引き離されるも、最終的には再び結ばれるというストーリーである。
ありがちっちゃありがちだが、身分違いの悲恋が駆け落ちやロミジュリのような悲劇に繋がらず、ひとつ(ハン)になって幸せな結末を迎えるのが韓国文化の特徴だ。
また、この「一時は引き離され」て、苦しみながらも再び結ばれたいと希求する心が「恨(ハン)」である。最初から最後まで幸せなままでは、実は「恨」のカタルシスは成立しない。

よくライブのメントで韓国人メンバーが「準備が大変でもうだめかもと思ったけど、こうして楽しいライブができてよかった」というような話をするが、これも「恨」の一種と言っていいだろう。
日本人からすると「楽しいのにわざわざ大変だったなんて言わなくてよくない?」と思いがちだが、韓国人にとっては「準備の苦労(恨)」があるからこそ、「楽しいライブ」という「完全なるひとつ」のカタルシスが生まれるのだ。
これはもう国民性なのであまり気にしないほうがいい。

大いに遠回りしたが、FACE THE SUNプロジェクトのストーリーもこの図式に当てはめて読むことができる。
Darl+ingで暗い地下世界に落ち、Trailerで表現された苦難を乗り越えて、SUNという完全なるひとつを目指す。
たいへん韓国文化らしいストーリー展開というわけだ。

ep.と曲目の関係

さて、ここから本気の「解釈」(つまりオタクの深読み)に入っていく。

私がアルバム「FACE THE SUN」を聴いてまず疑問に思ったのは、「ep.0のDarl+ingの直後にep.5のHOT?」という点だった。

もちろん再生数を伸ばすためにタイトル曲はアルバムの頭のほうに持ってこなければいけないし、各ep.に対応する楽曲が全てあるわけでもないのだけれど、アルバムも物語形式にしてほしかったな??? というのが当時の素直な感想だった。

そんな自分の素直な感想を覆す、本プロジェクトの「読み方」をしてみたい。

我々はep.0 Darl+ingの後、Trailer、ep.1の写真、ep.2の写真、ep.3の写真、ep.4の写真、ep.5の写真、ep.5のHOTという順序で物語を提示される。
これは誰がどう見てもスッと読めるストーリー展開だ。

ほとんどの人はまずHOTのMVを見た後、アルバム「FACE THE SUN」を頭から聴いていく。Darl+ing、HOT、DON QUIXOTE、March、Domino、Shadow、ノレヘ('bout you)、IF you leave me、Ashの順に。

着目してほしいのは最後のトラック、Ashだ。
HOTで燃えた後なのだからAsh(灰)が出るのは当たり前なのだが、錬金術仕立てのストーリーで読むと、実はそれはおかしい。
なぜなら錬金術は普通の燃焼(白い物質が赤く燃えて黒い炭・灰になる)を逆戻りするものだからだ。

Ashは錬金術の最初の段階に戻ってきている。
とすると、他の楽曲もこう読めないだろうか?
・DON QUIXOTE、March:「走る」イメージから、道を切り拓いて走っていくep.4 Path
・Domino:「君へ倒れ込む」イメージから、錬金術でいう化合(赤)の段階。ep.でいえばep.3 Ray
・Shadow:そのままずばりep.2 Shadow
・ノレヘ('bout you):曲調が明るすぎて解釈がしづらいけれど、前後を考えると化合相手の「君」と再び出会う、錬金術の原料が揃った段階だろうか
・IF you leave me:「君が離れていってしまう」イメージから、「恨」の苦難の場面、あるいはもっとも思い通りにいかない状態であるep.1 Control

こうしてAshに戻ってくる。つまり、アルバムのアートワークと曲目を順番通りに鑑賞すると、ぐるりと一周して元に戻るのだ。

ただし、単なる閉じた円の一周ではない。
Ashでは灰の中から生まれ変わるフェニックス、あるいはサビの「箱舟」という単語で、洪水による世界の終わりから脱出して新しい世界を一から築くノアの箱舟のイメージが語られている。
つまりAshは生まれ変わりの歌だ。
円というよりも、ぐるりと一周して新たな段階へと上った、螺旋のイメージがここに表れている。

錬金術の講義で螺旋のイメージの話も聞いた気がするが、ググってもあまり出てこなかったので定かではない。
でもそんなことは、ドルゴドラ(Circles)で説明してしまえばいい。

逆から聴くアルバム

ようやくSECTOR 17だ。
SECTOR 17の4曲を通して聴いた第一印象は、
「いや情緒……」
前後の曲の情緒の差が激しすぎて、正直耳がキーンとなる。

ただ、ここで私はピンときた。この4曲、本来は逆から聴くものではないだろうか?

これはFACE THE SUNリリース時にも立てていた仮説だ。
ep.5のHOTが前、Shadowが後ろにあるから、逆から聴くのでは? と考えてみたが、それではDON QUIXOTEとMarchの繋がりが意味をなさなくなるので違った。
そう、FACE THE SUNの曲目はあくまでもep.のイメージが巻き戻るだけで、内容的には楽曲世界独自の新しいストーリーを語っている。

あと今更の説明になったが、Trailer冒頭の幾何学模様が反時計回りに描かれるのもひとつの手がかりだった。
Darl+ingで13人は並行世界に落ちる。並行世界では時計は逆回りだ。おそらく探せば参照作品の一つや二つ見つかるのだろうが、面倒なので感覚的に納得しておいてほしい。

それで、私はSECTOR 17の4曲を逆に並べてプレイリストに入れ、聴いてみた。
するとなんとあら不思議、何の情緒の問題もなくキレイ〜に繋がったのだ。
気になる人は試してみてほしい。

そもそも公開の順番としては、タイトル曲よりも先にCHEERSのMVが出ている。
Ashから直接CHEERSに繋げる自然さは、曲調的に火を見るよりも明らかだ。

リパケも再生数を伸ばすためにアルバムの頭に新曲が加わるが、公開の順番としてはFACE THE SUNの後、つまりAshの後ろにつくはずのトラックである。

そして今これを書きながら聴いていて初めて気づいたが、CHEERSのあの印象的な笛のフレーズ(アウトロもこれで終わる)と、舞い落ちる花びらのイントロのメロディーがめちゃくちゃ似ている。ちょっと鳥肌立った。
え、SECTOR 17逆戻し、絶対全員聴いて。

AshからCHEERSでNew Heightsに至り、舞花と_WORLDで花咲くヘヴンのNew Beginningを迎えたSEVENTEEN。
最後の曲はドルゴドラ(Circles)だ。
もう私たちは舞花をよく知っていたので、MVを見た後にアルバムを聴くなら、正真正銘、ドルゴドラは本プロジェクトでCARATが最後に知る曲だ。

大丈夫だよ 時計の針のように
また回り回って元の場所に戻るはずだから

Amebaブログ|そるさんの韓国語和訳ブログ|Circles - SEVENTEEN 歌詞和訳 かなルビ
より引用

説明は不要だろう。

Darl+ingのMVでは水中に沈められたり、ピンを刺されたりして止められていた時計が、再び動き出した。

時計の針は一周して元のところへ戻ってくるが、まったく元通りになるわけではない。
時間は前へと進んでいるからだ。

Darl+ingでは「Fighting round in circles, where is the way out(同じ場所をぐるぐる回りもがくんだ 出口はどこだろう)」と歌っていた彼ら。
出口がどこかにあるのではなく、そのまま回り回って螺旋状に上へと向かっていくことが答えだった。
その果てにはきっと太陽、そしてヘヴンがある。

ドルゴドラが回り回って戻ってきた場所、それはプロジェクトのはじまりの曲であるDarling、つまりCARATのところに他ならない。
再契約、そしてコロナ禍という苦難を経て、再び「完全なるひとつ」となったSEVENTEENとCARAT。
このまま一緒にどこまでも。そう願ってやまない。


ちなみに本プロジェクトの重要なキーワード「Shadow」についても論じたいことがたんまりとあるのだが、それはまた今度の記事に譲る。



スポ

余談だが、我が推しばーのんちゃんのBANDS BOYにはこんな歌詞がある。

Used to run away but I run in circles

AZLyrics.comより

「かつて(学校を辞めたとき)は逃げ出していたけれど、今はSEVENTEENとして円を描いて走っている」



スポやん!!!!!

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