タオルから感染する小児の淋菌感染症は存在するのか?

とある勉強会での発表をきっかけにして、
”家庭浴室およびバスタオルの共有が感染経路と考えられた淋菌性外陰膣炎の前思春期姉妹例”を読みました

要旨としては、”10歳と8歳の姉妹が淋菌性外陰膣炎を発症し、性的虐待を視野に家庭調査を入念に行った。結果的には性的虐待よりも浴室やバスタオルを共有していたことが原因ではないかと考えられた”というものです。

小児の淋菌感染症をみたら性的虐待を疑え、と学生時代から教わってきましたので、かなり衝撃を受けました。

この論文で紹介されていた文献にいくつか目を通していきます。

性的接触以外の淋菌感染症の成立:Systemic Review

 まずは”What is the evidence for non-sexual transmission of gonorrhoea in children after the neonatal period? A systematic review”というSytemic Review記事です。
 このSystemic Reviewでは、性的接触以外の理由で感染が伝播した40以上のイベントと、2000人以上の小児症例をまとめています。著者であるGoodyera-Smithらは”共同浴場、タオルや布、直腸体温計、介護者の手などが感染経路として確認された”としています。
 ただ、このSytemic reviewが参考にした論文は、古いものが多いのです。1950年代前後のものも当たり前で、1990年代だと新しく感じてしまうほどです。特に大規模施設(例えばこども病院など)内でのアウトブレイク事例は、性的接触以外の感染経路が疑わしいと言えそうですが、そういった事例については1900年前後のものがほとんどです(そして文献を読むこともできません)
 さすがにそこまで古いと、診断方法などが現在と異なりますので、それを現代にそのまま当てはめることは難しいように思います。

 このSytemic Reviewをもってして、”性的接触以外で感染した症例の報告がある”から、目の前の症例も”感染経路は性的接触以外である”とするのは、危うさも覚えました。

 とはいえ、これらの症例を見ていると、”少なくとも性的接触以外の感染経路を想定せざるを得ない症例も存在する”ということまでは理解できました。ただし、手指衛生の方法や、衛生環境が進んだ現代において、そんなことが起こりえるのかという疑問は個人的には残ったままです。

環境中で淋菌はどれくらい感染性を保てるか

こちらの論文"Survival of gonococci outside the body"は、男性の尿道分泌物を、スライドガラスと紙タオルの上に放置して、時間をおいてその尿道分泌物の一部を採取し培養するという実験です。

スライドグラス上の分泌物では48時間後、紙タオル上の分泌物では24時間後でも培養に成功したとのことです。

サンプル数は少ないですし、形式もoriginal articleではなく、correspondenceという難点はありますが、研究内容は興味深く拝見しました。

だがしかし、バスタオルは吸収性が高いので、紙タオルと同様には考えられないだろうと思いました。

まとめ

性的接触以外に環境などを通じて、淋菌が感染しうるという仮説を知るよい機会になりました。ただその仮説がするためには、いくつも条件がそろわなければならないように見えます。一般的なこととは、あまり考えない方が良いように思います。

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