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真空のゆらぎ

《Liminal Air Space—Time 真空のゆらぎ》
大巻伸嗣/国立新美術館・2023年

満月を思わせるトップライトだけが光る仄暗い大空間に、半透明のごく薄いビニールシートがゆらめいている。
聞こえるのは送風機の作動音とビニールが動くシャリシャリという音。
実る穂を垂れた麦畑を風が吹き抜けていくさま、あるいは寄せては返す波を見ているよう。
ただ、そのどちらとも違うのは、ビニールシートの位置が目線より上にあるため、近づくと飲み込まれそうな、ともすると吸い寄せられていきそうな迫力があった。

その場に立って作品と対峙すること自体がメディテーションであるような気さえした。

真空のゆらぎ、とは現代物理学で宇宙のはじまりに起こったとされている事象。

作品タイトルを知ってか知らずか、生命の源=海、しかも畏怖すら感じる神々しさをもイメージした。
そのくらい包み込むような迫力を感じたインスタレーション。

“アート”の定義や楽しみ方はとても難しく曖昧だけれど、そのひとつに「それを見て、あるいは体験して、心が震えたり鳥肌が立ったりする。すなわち生きていることを実感する」というものがあるとすれば、それをはっきりと実感させられた。

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