焼肉

今晩は焼肉だ。
そう考えるだけで何事もできる気がする。
私はいつも朝起きると、コーヒーを沸かし熱々のパンを片手にテレビを見ている。
でも、今日だけは違う。
ペットボトルに水を注ぎ片手にタオルを持って外に出かける。
私は走る。本来、走ることが嫌いだが朝の心地よい風や建物の隙間から差し込む朝日の光の温かさを感じている。足取りが軽く次々と進んでいく身のこなしの軽さに驚きさえ覚える。
だが私は動じない。その原因を分かっているからだ。
そう、今晩は焼肉だからだ。
私は走りながら無意識のうちに口角が上がっていたみたいだ。通りすがる人々が私を振り返る視線を感じて"ハッ"っと我に帰ったのだ。
気がつくと、私は知らない街まで来ていた。
ずいぶん遠くまで来たなと足を止め周りを見渡していると、眩しい光が私の目を刺激した。
ゆっくりと目を開けると、まだ登りきっていない太陽の光が川の水面に反射して周りの木々や花たちを照らし光っている、まるで森の中に迷い込んだような緑溢れる自然豊かな景色だった。
その景色を見た途端、身体中の疲れは、私の額を流れる汗を飛ばすように吹いている風と共に飛んでいったのだ。
私はペットボトルの水を飲み干し、深く深呼吸をした。そして、水面に浮かんでいた鳥たちが飛び立つ姿を見て、私は走って追っかけた。私は、走ることが好きだ。なぜなら、今晩は焼肉だから。

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