讃岐篇7 君は神父になる気はありますか。
禅喝破道場から12キロ歩き続け、83番一宮寺に。
五色台から降り、大都会高松市を歩く。
大きな栗林(りつりん)公園を横目に歩き続ける。
一宮寺から五キロ。
カトリック桜町教会は、「カテドラル」、すなわち司教座がおかれているところで、言ってみればそのブロックをまとめる大きな教会と言うことになる。
大きな聖堂でしばらく祈りをささげた後、受付を訪ねる。
しばらくすると、A神父様が現れて対応してくださる。
話し方が丁寧で独特のイントネーションが特徴的だった。
神父様は、まるで学校のような大きさを思わせる司祭館の一室に案内してくれ、
そして、近くの温泉まで一緒に車で連れて行ってもらった。
何日間もかけて歩いた何キロもの道のりがもののあっという間に過ぎ去っていくときのあの印象は何と言えばいいだろう。
車ですぐに行ける道のりを、自分はこんなに大変な思いをして来ていたのか、と。
教会に戻り、
「ところで、君、神父になる気はありますか。」
と聞かれた。
「ああ、ついに来るべきものが来たな」と思った。
「はい。」
と答えてしまった。
まんざらでもなかった。
神の道を進んでみたかった。
ちなみに、どこの教派でも同じかもしれないが、教会には若者が少ない。
未婚の青年男女が来ると、
「召命はあるの?神父様になる気はない?」
と必ず聞かれる(笑)
「ああ、そうか・・・やっぱり結局その道しか残されていないのかな。
中高大とミッション校を出て、しかも、哲学学んで洗礼受けたとなったら、
さらに、他にもう向いている職がないとなったら・・・
司祭以外に行くべき道はないんじゃないか。
しかも、ずっと自分は神さまのことばっかり考え続けているわけで、宗教が大好きなんだから、いっそのこと人生そのものを神さまに捧げることが一番の望みなんじゃないか。
本当に、私は神様とか宗教の話が大好きで、それをもっともっと深めたいし、もっと神様とお出会いしたい。
それに、自分は神様を伝えたい。」
神父になってもええんじゃないかなあと心のどこかで思っていた。
いつものミサに出席しながら、自分が壇上で説教している姿というものを何度も想像していた。
もし自分が司祭になったら、どんな働きをしているのだろう、というのもよく考えていた。
自分の中で一番生き生きとしていると感じるのが、聖書やイエス・キリストの話を誰かに教える時や、分かち合う時。
また、神様のことについて学びを深める時。
もっともっと、毎日毎週ずっといつも神様と共に生きて、喜びをいろいろと伝えることが出来たらどんなにか嬉しいだろうかと想像するだけでテンションが上がった。
それに、通るだけで「神父様、神父様」と「様」付けで呼ばれ、頼りにされるのかあ。
・・・あ、でも・・・
そうかあ、結婚できなくなるのかあ。
それに、私がどんなに心が狭く人を裁き、だらしなく、憎しみに満ち、心の美しいいい人として見られたいだけのエゴに満ちた存在か・・・
お金儲けがしたい、好き勝手自由に楽しく生きたい、真面目なんかできない、、、
そんな自分の本性を考えると、
「いや、私はそういう器じゃない」と後ろ髪をを引かれる。
私の中で、聖職者たるもの「マジメじゃなきゃいけない」「どんな人にも優しくなきゃいけない」「清く正しくなきゃいけない」+「周りからそういう風に見られなきゃいけない」という固定観念があった。
いや、むしろ、「周りからそういう風に見られなきゃいけない」の比重があまりにも大きい。
そうでないと、「それでもあいつは神父か!?」と後ろ指さされるのが嫌だ。
中途半端に、私は「いい子」「いい人」に捉えられ、しかもその像に苦しんでいた。
しかも、私は女の子には滅法弱い。
モテたい、好かれたい、親密になりたい、素敵な恋をしたい。
抱きしめたい、抱きしめられたい。
恋がしたい、恋がしたい、恋がしたい。
「また、神学校に連絡しておきます。
今どんな気持ちですか?」
と、聞かれる。
「いやあ、私は欲深く罪深く、どうしようもない。」
「そんな人こそむしろピッタリです。パウロだってそうだったのですから。」
・・・ああー、神学校ってどんなところだろう。
毎日祈って、ラテン語ギリシャ語ヘブライ語、哲学神学勉強して・・・六年!?
大学でも自分では得意だと思っていた語学も哲学も挫折したのに・・・気が遠くなりそうだ!
夕方からは、教区の青年を呼んで、三人で酒盛り。
次第に酔っぱらって、話が盛り上がる。
焼酎まで出てきた。
四国に来て、こんなに飲んだのは初めてだ。
飲みすぎで、その晩は何度も吐いた。
二日酔いを抱えたまま、A神父に挨拶する。
なんと、A神父、翌年から私の地元近くの教会に赴任することが決まったらしい。
連絡先を渡して、兵庫県に戻ったら、会うことを約束する。
ことの顛末は、またのちにお伝えする。
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