プロローグ

 平穏というものは突然になくなるものだ。まあわたしに元から平穏があったかと言えば、答えはNOかもしれない。わたしの四半世紀の人生は辛く険しいものだったかもしれないし、そうではなかったかもしれない。
わからないのだ。
 中流階級以下の家庭に生まれ育ったわたしは、もうそんなことを嘆く価値さえ無い。
 幼い頃から夢を見ていた。いつか不思議な力を授かり未来や過去へ飛んだり魔法少女や美少女戦士になって世界を救ったり、素敵な王子様と出逢い恋をして結ばれたり、そんな誰しも思ったことがあるだろう夢だ。
 大人になればそのような幻想は叶え難いものだとわかってしまった。わたしは王子様に出逢えるような階級にいる人間ではないことを知った。おそらくみな、幼いころにシンデレラという物語を聞いたりするだろうけれど、あのシンデレラだって虐げられはしても中流ないし上流階級、貴族の人間だった。
 なんて現実は辛く悲しいものだろう。思わず酒が進んでいった。店を出て月がまんまるで綺麗だなあと思いつつ、覚束ない足取りで自宅へ戻った気がする。
 意識と記憶はここで途絶えた。
 目がさめる。起き上がって、はた…とわたしは見覚えのない部屋にいた。
見覚えはないが、わたしはベッドにいる。自宅に戻るのを放棄してホテルにでも泊まったか。だがここはホテルにしては大変生活感があるワンルームだ。
 へべれけになりながら男でも引っ掛けたか?掛け布団をめくって自分の身体を確かめる。ご丁寧に男物ではあるが寝巻きを着せてもらっていた。考えを巡らせる。
 それにしても身体も頭も痛い。確実に飲み過ぎた。あまり酒と共に思考を深追いするのはやめようと誓う。 

異世界人来たれり


 閉鎖空間に綻びが出来たという報告を受けた。閉鎖空間もこれで終いになるのかと期待もしたが、そんな甘い話は無い。
 朝比奈さんはいくつかの時間軸で大きな歪みが出来たと言っていた。
 長門さんは膨大なエネルギー反応があると話した。そしてその反応のある場所が閉鎖空間であると想定した。あくまで想定なのは、閉鎖空間がこちら側の専門領域であるから、らしい。

───僕は確信した。これは最後のひとりが現れるその予兆であると───

#夢小説
#古泉一樹
#小説

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?