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湿地帯の夢【エッセイ】

最近、アメリカの湿地帯の夢をよく見る。本当に何の面識もない場所なので、少し怖かったりもするのだが、特に気にせず生きている。

先日、変なことに詳しい友人と会った。そこで、湿地帯の夢の話をした。

「随分と変な夢を見るね」

「変じゃない夢なんてあるの?」

「夢が変なんじゃなくて
  この世が変なんだよ」
そう言って彼女は笑った。
いまいち、言っていることが分からなかった。

その夢のことについて詳しく話した。
霧が濃くてさ、とか。色々話しても彼女はよく分からない場所で笑うだけだった。私は、こんな時間に嫌気がさすぐらいだった。

たわいない会話がすぎる中で、彼女が見た夢の話をしていた。それは、夢というよりかは現実に近いような気がした。自分たちの声しか聞こえない部屋にいるのは苦痛だったが、幸いにも窓が空いていたので、風が胸を吹き抜ける感覚は清々しかった。

「朝6時に起こされてさ、
  意識が朦朧とする中起きたんだけどさ、
  人それぞれによって嬉しい時間帯は違うなって
  思って、仮寝状態になったよ。」

「意味わかんねえ
  頭おかしいんじゃねーの」

「そうかなあ」

その時間はきっと美しかったと思う。
話のネタも尽きてきたので、彼女が好きなシャカタクを流した。CDプレイヤーはボロっちいので、音質はあまり良くないのだが、またそれがいい。彼女と話している間に、湿地帯の夢の内容はほとんど忘れてしまっていた。
彼女は、窓のふちに置いてあるヘラジカの模型を見て少しだけ笑った。
私は、彼女が笑うタイミングを少しだけ理解したような気がした。

しばらくして、彼女は帰った。

彼女が帰ったあと、もう一度シャカタクをかけた。
空いた窓から自分を照りつける夕日は、
もう二度と戻らないような気がした。

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